最強のご主人が死ぬまでの話
弐ノ舞
第1話
「つまらない。非常につまらない。もっと楽しいことはないのか」
主人はミノタウロスを倒して、ぼそぼそとそのようなことを呟いた。
「何がそこまでつまらないの?」
と聞いたことがあるけど、
「自分をワクワクさせるような敵に出会わないことがつまらない」
と呟くだけ。
「それなら魔王退治にでも行けばいいじゃない!」
と言ってみたが、
「それは面倒くさい」
とお茶を濁された。
今倒したミノタウロスもご主人の五倍もの大きさの魔物であるけれど、それを冷めた目で見ていた。
「そんなことばかりじゃないでしょ?」
私は少しうんざりしながらそう答えた。ご主人はいつもそんなことを言っているから投げやりな答えになってしまった。しかし、ご主人は気にした様子もなく
「そうか?」
と適当な返事をした。
自己紹介が遅れました。私は勾玉の精霊、名前はマグと言います。私の本体である勾玉を主人が拾ったのが出会い。
ご主人は歳が二十歳くらい。武器は1メートルくらいの大剣のみ。防具は一切つけておらず、非常にシンプル。その服装なのはご主人曰く「動きにくいから」らしいです。
そんなんだから一見弱そうにも見えてしまうけど、さっき言ったみたいに自分の身長の五倍もあるミノタウロスを一人で倒してしまいます。ご主人が倒したミノタウロスは十人から二十人のパーティーを組んで狩るほどのもの。
ふん、人間なんてしょせん非力。私たち精霊なら簡単にその程度の魔物は簡単に倒せます!そう思っていました。
そんなご主人は初めて私に出会ったのは、魔物が発生するダンジョンでのこと。精霊たちは寿命が長いから、珠に暇つぶしでいろいろな姿に見た目を変えて地上に降りることがあるの。
そんな私は勾玉の精霊だからその形になって、丁重に宝箱を用意してその中に入っていた。そして誰かが開けた瞬間に「わっ!」って驚かせようと楽しみにしたの。この世界でいうビックリ箱のようなものかしら。私ってそういういたずらが結構好きなのよね。
そうして「わっ!」っ驚かしたら彼はなんて言ったと思う?「お前、つまんないな」っていったの。精霊に対して初めにその一言を言い放つ人間なんて初めてで、私は動揺を隠しきれなかった。普通精霊に対しては敬意を払うものだから!
この世界で精霊は人々に富を与え、幸をもたらし、害悪を取り払う存在として祀られている。
そんな精霊に失礼な人間は消してしまってもいいのがこの世界の理。私は勾玉から具現化して、思わず力加減も忘れて、精霊特有の技「女神の息吹」を発動させてしまった。彼は吹き飛ばされて壁にぶつかり、死んじゃうはずだった。
だけど彼は吹き飛ばされたと思ったら、そのままくるりと回転して壁を蹴ってすたりと着地。そのまま私に切りかかってきた。彼の攻撃なんて効かないはずなのに私は怖くて逃げだしてしまった。勾玉を残して。
我に返った私が、宝箱に戻ったら彼は私の本体である勾玉を手にしていた。本体が彼の手にわたってしまったら私は彼に従うほかなくなってしまった。壊されたら死にはしないけど、ほかの精霊に知られたらとんだ恥さらしになる。それに、一度自分を負かした相手には敬意を払うのが私たち精霊の中での決まり事。
(私のことをどこかで吹聴されても困るし)私は彼に付き従うことになり、彼がご主人になった。でもこれはご主人が誰かに倒され、殺されるまでの辛抱。
つまりこの話はご主人様が誰かに負けるまでの話。
最強のご主人が死ぬまでの話 弐ノ舞 @KuMagawa3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強のご主人が死ぬまでの話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます