亡くした女神と閉じた少年

島田(武)

初めてのそれらは甘くて苦い

 燃えるような深紅の髪と瞳を持つ彼女は表情豊かな少女だった。


 悔しそうに睨む彼女も、照れて視線を逸らす彼女も、困ったように瞳を細める彼女も。数えきれないくらいの彼女を知っているのは、この先もずっと自分だけだといい。

 そんな淡い期待を込めながら、少年は目の前の少女に向かって告げた。


 少年が、こんなにも拒絶を表す言葉を口にしたのは初めてだった。

 少女の深紅の瞳が揺れ、絶望が広がっていく。瞬間、反射的に掴みかかった少女は背中までの長い髪を乱し、少年を睨んだ。


 少女の頬の上を滑るように雫が伝う。

 綺麗だ、と素直に思った。

 なのに、少年の胸は切なさに締め付けられる。


 何故、だとか。

 どうして、だとか。

 また、それに続く疑問も迷いもすべて少年は断ち切った末決めたことなのに。


 冷たい初冬の風に乗って慌てる大人達の声がした。どうやら時間はもう幾許いくばくもないらしい。


 彼女と一緒に過ごせるのもあと少し、だなんて生易しいものならどれだけ良かっただろう。

 現実は、もっと残酷で罪深い。


 しかし閉じると決めたのは少年だ。全ては彼女の為、いや、ほんの少しは少年の我儘なのかもしれない。


 最後に叶うはずのない願いを込めて、少女に今夜のことについて叱られる、有りもしない未来を夢見て。


「ごめんね、フレイヤ」


 少年はそれを閉じた。





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