9.見栄えへの欲

 二週間くらい経った頃から、わたしの中で欲が出始めた。


 ――水槽を飾りたい。


 ウーパールーパーのために整えた60cmらんちゅう水槽の環境は、大磯砂を敷いているのみ。もちろんこのままでも飼育していく上で問題はないのだが、やはり殺風景であることは否定しがたい。


 一方で、水草をセンス良くレイアウトするだけの技量が自分にあるとも思えなかった。そもそも前述したとおり底砂は大磯であってソイル(※注1)ではなく、しかもフィルターが上部式ときている(※注2)。水草を育てるには限界がある。


 ならば、人工水草か?


 しかし、人工水草がしっかり本物に見えるのかという点について、当時のわたしは非常に懐疑的であった。だってショップの売り場で見た感じ明らかにオモチャなんだもん(※注3)。これらに頼るのは何となく負けという感じがある。……我ながらめんどくさい初心者だったと思う。


 あと考えられるのは、石や流木。


 なのだが、やはり少々考慮すべきことがある。


 ウーパールーパーは基本的に水槽の底でぼーっとしている生き物だが、驚いたり危険を察知したりすると凄まじい瞬発力を見せるのだ。ところが彼らは視力が悪い。周囲に尖ったものを配置すると、ぶつかった拍子に体を傷つけてしまうおそれがある。


 石や木を入れるにしても形状は選ばねばならないし、条件を満たした上でわたしの気に入る形のものが都合よく売られているかは疑問だ。これは根気よく探していこうという案件であって、入手しようと思ってすぐに調達してこれる話ではない。


 さて、そうなると、残る選択肢は相当に限られる。


 わたしはアクアショップに赴くと、人工のストラクチャーを探した。


 つまり、土管とか難破船の模型とか、そういうやつだ。


 こうしたストラクチャーは水景に変化を加えられるだけでなく、生体が隠れられるシェルターとしても機能する。わたしのウーパールーパーは単独飼いだから他の生き物に追われる心配はないが、そうは言ってもやっぱり身を隠す場所があったほうがストレスなく過ごせるだろう。


 というわけで最終的に選ばれたのは、人間の頭蓋骨のオーナメントだった。今にして思えばあれは水槽用じゃなくて爬虫類用だったような気もするが、まあ、些細なことだ。


 ……悪趣味? それも、些細なことだ。



     ◇ ◇ ◇



 ※注1:丸い粒状に焼き固められた土。肥料を配合されているタイプもある。なにしろ土なので水草を育てるのに適している。水草メインにレイアウトを組むなら砂利よりも断然ソイルのほうがやりやすい。


 ※注2:上部フィルターは水草の育成に向かない。CO2添加効率が悪くなるため。


 ※注3:各メーカーの企業努力の賜物か、現在の人工水草はかなり精巧にできているので皆さんは安心して購入していいと思う。というか、2013年当時の人工水草だって水の中に入れたらそれらしく見えていたのではないだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る