アクアリウムとわたし

スガワラヒロ

第一章

わたしとウーパールーパー

1.クレーンゲームとウーパールーパー

 わたしが水槽趣味に目覚めた経緯は決して褒められたエピソードではない。


 小学生の頃に実家で金魚を飼っていたのは確かだが、なにしろ昔すぎてほとんど記憶にないので、当時の経験はまったく現在に活きていない。覚えていることといえばごく普通の和金だったこと(たぶん夜宮か何かで掬ってきたのだろう)、無濾過で飼育していたこと、出自と環境のわりには長生きしたことくらいだ。


 だから、わたしのアクアリストとしての原点はもっと後。


 社会人生活に慣れた頃、一緒に映画(※注1)を観る予定だった友人との待ち合わせの最中、シネコンの隣のゲームセンターに入ってクレーンゲームをプレイしたのが全ての始まりである。


 その台の景品こそ、ウーパールーパー。


 ……いや、皆様の言いたいことはわかる。ただでさえ騒音の激しいゲーセン、しかも温度調節などされていないであろうクレーンゲームの筐体に生き物を閉じ込めるとは何事か。そして、そんなものの売上に貢献するということは動物虐待に加担することではないのか。琴音(※注2)だったらそんなふうに説教を始めているところだと思うし、今ならわたしもその論に同意する。


 しかしまあ、当時はわたしも若く、難しいことなんて何も考えちゃいなかったのである。


 結果を言えば、ゲットするのにかかった費用はわずか300円だった。


 というのも、わたしと待ち合わせていた友人というのがクレーンゲームの名手だったりするのだ。わたしに彼ほどの腕前はないが、彼が景品を落とすところを何度も横で見てきたため、ある程度コツは把握していた。


 また、そもそもウーパールーパーはナマモノだから、ゲーセン側としても在庫を抱えたくはなかったに違いない。設定がずいぶん甘かった。


 形はどうあれ、これがわたしとアクアリウムの最初の出会いだった。



     ◇ ◇ ◇



 ※注1:このとき観賞した映画は『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』であった。2013年9月の出来事だったことがわかる。


 ※注2:拙作『アクア・デイズ』の主人公、巳堂琴音のこと。

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