『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
というか、『お兄様』と呼んで欲しい ver2.0
というか、『お兄様』と呼んで欲しい ver2.0
「その辺りの説明は全てを終わらせてからでいいか」
なんでいきなり騎士とか言われたのか、しっくりと来ないが、それは後から説明してもらっても問題なさそうだ。
今回の茶番劇を終わらせる事の方を優先すべきだよね。
「終わらせるとは、どういう事なのです?」
千宮院蘭が眉間に皺を寄せて、不穏な空気を読み取ったようで、そう訊ねてくる。
「ラリアット・フランケンシュタイナーって人が黒幕っぽいんで、そいつを叩いてこようかな、と。弟の万次郎がそいつにやられたみたいだしさ。モブ子にこんな事をした上に弟を倒した人を叩きつぶすのは、兄としての義務みたいなものでしょ」
なんかそういうパターンが多くなってないかな?
いやいや、あまりそういう事は気にすべきではないか。
「あのフランケンシュタイナー博士が……」
千宮院さんは何か思いたる節があるようだ。
だけど、それは今聞いたところで詮ない事だ。
モブ子を人質に取られた事。
モブ子と千宮院蘭さんの乙女の戦いが邪魔された事。
それに万次郎が噛ませ犬よろしくまた倒されていた事。
それらの件に千宮院さんが関わっていたとしても、もうこれは僕の戦いになりつつある。
大事な家族を傷つけられ、同居人にはずかしめを与えた。
もうそれだけで戦う理由になるというものだ。
「その人については終わった後で聞かせてもらうよ。その人に傍にもう一人いるんだけど、どっちかが強敵ぽいからちょっとは手こずるかもしれないけどね」
「何をするというのです?」
僕はモブ子の身体をそっと離した後、モブ子の表情をよくよく見ると、瞳から一筋の涙が流れていた。
「怖いなら怖いと言わないと」
僕はその涙を手の甲で拭った後、コートのボタンを上からふたつほどとめてやった。
「すっぽんぽんみたいな格好を見せるのは感心しないな」
「鼻血をずっと流している兄じゃこそ感心しないわね」
どうやら、鼻血は止まっていなかったようだ。
右の手の甲で鼻の下辺りを拭って、目視してみると、なるほどまだ鼻血が出ていたようだ。
手の甲がぬるっとした血で塗れていた。
「千宮院蘭さん。さっき、モブ子を……ええと、明神輝里の事を『モブ』って呼んでたけど、モブじゃなくてモブ子だから。モブ子は一介のモブじゃないからモブと呼ばないで欲しいんだけど、まあ、いいか、今は。えっと、モブ子を少しの間頼んだよ」
モブ子はモブ子であって、モブじゃないんだ。
その事について説明する必要はあるのか、無いのか。
ないと言えばない。
あると言えばある。
万次郎にとってはモブみたいな存在になってしまっていたからモブ子になったワケでして。
僕にとって、モブ子は……
「……あれ? 何なんだ?」
同居人?
最近、顎で使われているからご主人様?
……ん?
待てよ。
僕が欲しかったのは『流石ですわ、お兄様』と言ってくれる妹じゃないか。
もしかしたら、僕の事を『お兄様』と呼んでくれるかもしれない女の子じゃないか、モブ子は。
今は僕の事を『兄じゃ』と呼んでいるけれども、きっといつかは『お兄様』と呼んでくれるかもしれない。
いや、ないかもしれないけど、いつかはきっと呼んでくれるに違いない。
というか、『お兄様』と呼んで欲しい。
モブ子はそういう存在……って、どういう存在なんだ。
分からない。
僕にとってモブ子はどういう存在であるのだろう?
「……騎士様?」
千宮院さんが訝しげな表情で僕を見つめてくる。
「終わった後、ゆっくりと考えればいいか。よし、行こう」
僕は気持ちを切り替えるために、自分の頬をぴしゃりと叩いた。
「そんじゃ、よろしく」
蘭さんにそう言った後、モブ子に笑みを投げかけてから走り出すと、
「鼻血、まだ出ているわよ」
そんなモブ子の言葉が僕の背中に向けられた。
ティッシュ持ってくれば良かったな、などと思いながら、僕は舞台袖へと向かい、舞台袖に入るなり、瞬間移動で万次郎が倒れているビルの屋上を思い描きながらその場所へと飛んだ。
「よっと」
瞬間移動した瞬間、ビル風が吹き、思わずぶるっと身震いをした。
屋上は夜の闇に包まれていて、目が慣れるのに若干が時間がかかったものの、万次郎が倒れている場所はすぐに分かった。
分かったというか、僕の足下に万次郎が転がっていたのだから。
「……大丈夫、万次郎?」
防御フィールドを僕の周囲に張り巡らせながら、その場でかがみ込んで万次郎に声をかける。
「……ッ」
僕の声に微かに反応したので、ホッと胸をなで下ろした。
「身体は動かせる?」
「……さすがじゃ、兄じゃ。すぐに駆けつけてくるとは……」
身体を動かすのが辛いようで、顔を上げる事もままないといった様子なのに僕を見ようと顔を上げようとする。
「兄じゃ……その血は……誰に?」
万次郎が心配そうな目で僕の口元を見つめる。
「モブ子だ。モブ子にこっぴどくやられた」
そうだ。
僕は悩殺されたんだ。
モブ子に。
その証拠がこの鼻血だ。
「なんと……キラの奴が兄じゃを殺るは……」
「……殺られてはいないんだけど。まあ、それはいいとして、万次郎をやったのは、あの二人?」
僕は背後にその気配を捉えている二人について言及する。
二人は僕の存在を察知していないようで、視線さえ感じてはいない。
一人はフランケンシュタイナー博士なのだろうけど、もう一人は何者だろうか?
「……うむ。あの女は強敵だ。おそらくは……兄貴の生まれ変わり……」
「……兄貴? 万次郎の兄貴っていうと……いたっけ?」
生き別れの兄貴なのかな?
「……劉備玄徳の生まれ変わり……かも……しれぬ……」
「……ああ、桃源の誓いの。また妄想か何かか、それとも、あの女の身体を乗っ取ったとかじゃないかな?」
モブ子の身体を乗っ取る技術があるのだから、あの女の人も身体を乗っ取られている可能性も捨てきれない。
そうだとしても倒さなければならない敵である事実には変わりはない。
「……分からぬ。だが、強い……」
「ちょっと待っててね。すぐに片付けて、万次郎を病院に運ぶから。……あれ? 病院? そういえば、万次郎って入院してなかったっけ?」
また抜け出してきたのかな?
でも、どうして?
もしかして、モブ子の戦いとやらを見に来て、戦いに巻き込まれたのか、それとも、見過ごすことができなくて挑んだとかそんなところなのかな?
「……また抜け出してきた」
「無茶しすぎだよ、万次郎。また入院日数が増えちゃうじゃないか。骨折しているんだから出歩いたり、街中でバトルをしたらダメじゃないか」
「……すまぬ……すまぬ……」
「すぐに終わらせるから」
僕は立ち上がり、僕に背中を向け続けている二人の方へと身体を向ける。
「今生の別れは終わったかい?」
劉備玄徳の生まれ変わりと自称する女の人が背中を向けたまま言う。
どうやら僕の存在には気づいていたようだ。
「別れのワケないじゃないか」
「……そう」
女の人は振り返って、すぐに消えてしまいそうな薄い微笑みをその口元に浮かべていた。
「お祭りは邪魔しちゃいけないんだよ。分かっている?」
モブ子と千宮院蘭の戦いに水を差した罪をあがなってもらわなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます