鈴麗競に対するモブ子の心意気は? ver2.0



 万次郎はピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザというペースで食べ続けていて、寿司には目もくれていなかった。


 モブ子は、寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司ピザ寿司寿司寿司寿司寿司寿司ピザピザ寿司寿司といった様子で顔をほころばせながら美味しそうに食べていた。


 二人は大食漢というべきか、美味しいものは胃にいくらでも入ると言いたげに食べている。


 僕はそんな二人と対面する位置に座り、その食べっぷりを見ながら、ゆったりとお寿司をつまんでいた。


 やはり職人が握ったお寿司は美味しい!


「のんびりとご飯が食べられるのは良いことだよね」


 千宮院蘭との決闘についてある程度決まった頃合いを見計らって、出前を頼んでいた寿司とピザが同時に届いた。


 僕が普通にお金を払おうとすると、千宮院蘭が迷惑をかけたからと、突如として現れた黒服達がその場で支払った上、十本語達を撤去して去って行った。


 十本語達はどこかで生きているに違いない。


 たぶん、死んではいないはずだ。


 たぶん……。


「……して、モブ子。僕の部屋を家捜しした件、正直に話してもらおうか」


 お腹がいっぱいになったのか、箸などを片付けて、お茶を飲み始めたモブ子にそう訊ねた。


 あの件だけはどうしても聞いておかねば。


「言った通りよ。あの時は、話したい事があって、兄じゃの部屋に入ったけれども、誰もいなかったの。その時に机の上に懸賞金の受け取りに関する書類が置いてあったのを見つけたのよ」


 モブ子はそう言うと急須を持って立ち上がり、電気ポットにいき、お湯を入れて戻ってきた。


「ああ、僕は無造作に置いていたのか」


「最初は驚いたわよね。懸賞金というものが何であるのか、私は知らなかったのよ。で、調べてみたら未解決事件にかけられているものと分かったの。一介の高校生が解決できるものなの? と思って、悪いとは思ったけれども、兄じゃの部屋をくまなく探し回ってみたの」


「……それで、エッチな本を見つけた、と?」


「ええ。大量に隠し持っていたわよね。嗜好も分かった事だし」


 モブ子が含み笑いをして見せた。


 僕の弱みでも握っていますよ、とでも言いたいのだろうか?


「エロ本は男の甲斐性じゃ! 覚えておけ、キラよ」


 一瞬だけピザから口を離して、万次郎がそう言うなり、またピザをガツガツ食べ始める。


 というか、本当に十人前のピザを完食しそうな勢いだ。


「エッチな本は十八歳以上からでしょう?」


 モブ子は万次郎に睨みを利かせた後、僕にも鋭い視線を送ってくる。


「はい、その通りです。モブ子の仰るとおりです! 偶然たまたま僕の部屋に発生していただけで買って来たワケじゃないからね!」


 分かっているけど、僕は年頃の男の子だ。


「は?」


 モブ子が呆れたような視線を送ってくる。


「いや、何でもありません」


 僕は誤魔化すように、モブ子から視線を逸らしてお寿司を口に運ぶ。


「エッチな本は副産物のようなものよ」


 じゃあ、何を探していたんだろう?


 お金とか?


 でも、そうとは思えない。


 なら、なんだろう?


「懸賞金の関する書類が他にないか、それが知りたかったの」


「……ああ」


 保管していた書類ならば、他にもあったはずだ。


 両親からお金について何か言われた際にあった方がいいだろうと思って取っておいた奴だ。


 それも見られたというのかな?


「だから、私は知る事ができたの。あなたが常人ではないと言う事を」


「どうやら本当の僕を見つけてしまったようだね、モブ子は」


「本当の? 兄じゃの頭の構造を覗いてみたいわね。おぼろ豆腐でも入っていそうよね」


 軽蔑するような目で僕を睥睨してくる。


 僕は何かおかしな事を言ったのだろうか?


「普通の高校生に解決できるような事件なんて存在しているはずはない。それなのに、何件も解決している。そんな人を常人だと認識できて?」


「だから、驚かなかった……と?」


 僕が超能力を披露しても、モブ子が動じなかった理由が見えてきた。


「最初は名探偵かと思ったわ。でも、凡人すぎたもの、兄じゃは」


「凡人って……それは褒め言葉なのか?」


「ない頭で考えても分かると思うのだけど、そんなワケないわよ。言葉の意味通りの凡人よ。けれども……」


 モブ子は口の中を潤すようにお茶を一口。


「それ以上を言うのは野暮ね」


 どういう意味なんだろうかと思って、モブ子の目を見つめると、すっと目を逸らされてしまった。


 よくない言葉が出て来そうだったので、僕を傷つけまいと配慮してくれたって事なのかな?


「……明日の準備をしないと」


 これでこの会話は終わりと言いたげに、モブ子が立ち上がった。


「本気でやるの?」


 どんな勝負なのか僕はまだ分かっていない。


 女の戦いってどんななんだ?


「才色兼備の千宮院蘭さん? あの人と勝負するのはとても愉快だとは思うの。境遇が天と地ほどに差がある私と勝負するっていうのよ? それを愉快と言わずに何と言うの?」


「千宮院蘭との勝負が楽しみって事なんだね」


「……かもしれないわね」


 意味ありげに唇の右端を持ち上げて、ニッと笑って見せて、リビングルームから出て行ってしまった。


 その勝負が僕の取り合いって事なんだけど、モブ子は分かって言っているのかな?


「楽しそうじゃのう、キラは」


 いつのまにか、十人分のピザを完食していた万次郎がでっぱっているお腹をさすりながら、満足げな表情をしていた。


「……そう?」


「ワクワクしておるのかもしれんな、真剣勝負である事に」


「ああ、なるほどね」


 モブ子はそういった勝負事が好きなのか。


 だから、楽しそうにしていたって事なのか。



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