地獄の門 ver2.0



 丸々がめつい金融は、物々しい雰囲気に包まれていた。


 ビルの入り口辺りから強面のお兄さん達が群れていて、僕たちが入ろうとすると、ここ先は通さないとばかり立ちはだかってきた。


 モブ子は戦々恐々としてか、それとも、怖いからなのか、浮かない表情をして誰とも目を合わせないようにずっと俯いていた。


 万次郎と言えば、強面のお兄さん達がいるのを見るなり臨戦態勢に入ったのか、右眉を緊張感からかヒクヒクさせ始めて、いつでも戦えます! といった殺伐さだった。


 僕はというと、さっさと終わらせたいからすぐに通して欲しいんだけど。


「……ヘルゲート?!」


 強面の誰かがそう呟くなり、お兄さん達が顔を真っ青にさせて横にのけたので、さっと入り口への道が開けた。


 どうして僕の名前が知れ渡っているのかな?


 闘争を一人で壊滅させたせいもあるんだろうけど、ちょっと警戒すぎやしませんか?


「ほら、行くよ」


 万次郎がお兄さん達を威嚇するようにギロリと睨め付けるのを止めさせたくて先を急いだ。


「う、うむ」


 万次郎は不承不承ながらも僕についてくる。


 モブ子はというと、そんな万次郎ではなく、僕の後ろに隠れるようにして付いてきていた。


 争いに巻き込まれる可能性がある万次郎よりも、不戦の僕の後ろに隠れるのを最善と思っているのかもしれなかった。


 ドアの前にもお兄さん達がいたけど、来たのが僕だと分かると、ドアを開けて、どうぞとばかりに丁寧な対応をしてくれた。


 店舗の中は前と違っていて、机などが後方に押しやられ、ソファーが二脚置かれていた。


 お店の中にいるのは、どういうワケか、二日間待つと言ってくれたスキンヘッドのおっちゃん一人だけだった。


 おっちゃんはソファーの一方に座っていて、僕たちを見ると、空いている方のソファーに座るよう手で促した。


「ども」


 僕が右端に座るとモブ子が真ん中に、万次郎が左端に腰掛けた。


「さて……」


 おっちゃんは腕を組んで、身体を前に傾けて、僕の顔をのぞき込む。


「用意してきたんですよね?」


 僕は返事の代わりにバッグの中から四百万円の札束を取りだして、おっちゃんの方に差し出した。


「……確認しますね」


 おっちゃんは札束を受け取るなり、枚数を数え始める。


「四百万、確かにいただきました」


 数え終わると、おっちゃんは札束をソファーに置いた。


「ヘルゲートさん、あなた、本当に人間なんですかね? 昨日ですかね、栃木を飛び回っていたって話もあれば、京都で見かけたって話もあるんですがね」


 凄い情報網だ。


 昨日は、栃木で一件、京都で一件ほど事件を解決させていた。


 そんな情報がもう出回っていたとは、この人達の情報ネットワーク恐るべしといったところだ。


「他人のそら似なんじゃないかな?」


 僕はとぼけて見せた。


 あえて言う必要はなかったし。


「……そうですか。なら、これで終わりですな」


「終わらせる前に借用書を渡して欲しいんだけど」


「……それはさすがに処分しないといけないんですね。表に出ちゃうと大変な事になるんですよ。分かってもらえますかね?」


 眉間に皺を寄せて、おっちゃんは低い声でそう告げてきた。


「すぐに返すから見せてもらうだけでも」


「……それならばいいですがね」


 おっちゃんは着ているジャケットから一通の封筒を取り出して、僕に差し出してきた。


「ありがと」


 僕はその封筒を受け取り、中身を確認する。


 入っていたのは、一枚の借用書だった。


 お金を借りたのは『明神剛』という人だった。


 ということは、モブ子は、キラ・モブ子という名前じゃなくて、明神モブ子なのか。


 いやいや、モブ子は勝手に名付けた名前だし、本名は別にあるのか。


「うん、これなら大丈夫だ。万次郎、モブ子、僕の肩に手をのせて」


 明神剛の残留思念は、まだこの借用書にきっちりと残っていた。


 これならばサーチで居場所が特定できるはずだ。


 サーチを使用してみると、茨城県の辺りにいるのが確認できた。


 おっちゃんに見られるのは嫌だけど、こうするしかないか。


「え、ええ……」


「なんじゃ、兄じゃ?」


 二人が何の事か分からないといった様子ながらも、僕の肩に手を添えた。


「……さて、飛ぶよ。おっちゃん、待ってくれてありがとうね」


 僕はそうお礼を言った後、瞬間移動で、明神剛がいる場所に飛んだ。


 もちろん、万次郎とモブ子も連れて、だ。


「……消えちまった。地獄の門がまた開いたのか?!」


 ひらひらと舞って地面に落ちていく借用書。


 その先には、あんぐりと口を開けて、身体をわなわなと震わせているおっちゃんの姿が飛ぶ前に見えた。


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