『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
ピーチネクター片手に桃園の誓いを 第二話 ver2.0
ピーチネクター片手に桃園の誓いを 第二話 ver2.0
僕が通っている学校は都立井崎ヶ丘高校といって、都内でもそこそこの学力で、そこそこ運動部が強くて、そこそこ有名な、そこそこの高校だ。
そんな学校に通う僕の成績はそこそこで、そこそこの高校にそこそこ似合っている、そこそこの高校生だ。
超能力を持っている以外は、全てがそこそこなんだ、僕は。
そこそこの僕が、ここ最近、そこそこじゃなくなりつつあった。
それもこれも……
「兄じゃ! 兄じゃ! 兄じゃ!」
それも、これも、こいつのせいだ。
僕のクラスと隣のクラスに最近転入してきた、最近できた僕の義理の弟だ。
「兄じゃ! 教えてくれ! 兄じゃ! この人差し指だけでの腕立て伏せができん! やり方を教えてくれ!」
足音をとどろかせながら、弟が僕の教室に入ってきて、開口一番にそう叫ぶように言った。
転入してきてからというもの、こうして僕の教室に乱入に近い足取りで来るものだから、僕自身の義理の弟と同じような、そこそこ変な人とみられるようになってきた。
困った事だ。
いくら注意しても止めてくれないのだから、どうしようもないのだけど。
「……やれやれ仕方ないな」
僕は仕方がないと言いたげに、弟を連れて屋上に行って、人差し指だけでやる腕立て伏せを披露した。
もちろん超能力を使ったインチキだけど。
これくらいの知識はないとね。
「さすだが、兄じゃ! 俺にはできない事をやってくれる! さすがだ、兄じゃ!」
最近、僕の弟になった桑原万次郎は大声を上げて喜んだ。
弟になったというのは、その言葉通り、つい先日、僕の家族に弟として迎い入れられたのだ。
高校生とは思えないくらいの立派な髭を顎などに生やしていて、三十歳だと言っても信じてもらえそうな逞しい顔立ちをしている上、身長が百八十センチくらいある筋肉質の巨漢であったりする。
本当にゲームで出てくる『張飛益徳』そのものといった外見をしている。
何故、張飛の名前を出したかというと、弟として僕の家に来たその日に、僕の部屋にビーチネクターを二本持ってきて、こんな事をのたまったからだ。
「兄じゃだけには、俺の秘密を教えておこうと思う。俺はな、こう見えても、三国志に出てくる張飛益徳の生まれ変わりなんじゃ!」
「は? 何言っているの?」
当然、僕はそう言ってしまった。
「うむ! 重々承知しておる。この話を誰も信じてはくれん。だがな、この事を兄じゃに秘密にしておくわけにはいかないのだ。兄じゃには知っていて欲しいと思ったんだ。あの雄志を見てしまったからには言わずにはおれなんだ」
「はあ」
僕は気のない返事をして、この頭がおかしいであろう弟を見つめた。
両親からは僕と同い年だけど、生まれた月が違うから、僕が兄で、この万次郎が弟になると言っていた。
というか、僕は妹が欲しかったのに、どうして弟ができたのか、それもよく分からなかった。
「俺はな、兄じゃに出会うためにこの世に生をうけたのではなかろうか。兄じゃの役に立つためにこうして弟になる運命だったなのではなかろうか」
「……はい、……はい」
僕はなんとなく納得できなかったけれども頷くしかなかった。
この新しい弟が何を口走っているのか、理解のしようがなかったからだ。
「だから、兄じゃと桃園の誓いをしたいのだ。しかし、桃園がないから、これで我慢して欲しいのだ。分かってくれ、兄じゃ!」
万次郎は二本のピーチネクターを取り出して、そのうちの一本を僕に差し出してきた。
戸籍上は弟になっていても、本当の弟になったとは僕が思ってくれないと考えて、こんな馬鹿げた話をしているのかな?
僕はなんて思い始めていた。
それだったら、馬鹿そうな万次郎の話にのってあげようと思って、万次郎からピーチネクターを素直に受け取り、弟の破天荒な考えに苦笑した。
「俺と兄じゃは生まれた日は異なれど、こうして戸籍上は義理の兄弟になった。だが、義理ではダメだ。本当の兄弟になるために誓いを立てて、どこまでも助け合おう! 俺は兄じゃのためにある! 兄じゃは兄じゃのためにある! 兄じゃが求める世界があるのならば、俺が兄じゃを助けるのだ!」
そんな事を叫んで、万次郎はピーチネクターで乾杯するよう促してきた。
僕は仕方なく、ピーチネクターを掲げて、乾杯し返した。
『これで、俺と兄じゃは本当の兄弟だ!』
そう言って、万次郎はピーチネクターを飲み干した。
そうして、僕と万次郎は桃園の誓い(?)みたいなものをして、義理以上の兄弟におそらくはなったのだと思う。
そのためなのか、休み時間になるとこうして僕のところに足繁く通ってくるのだ。
迷惑この上ないのだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます