皇帝から国勢調査を命じられたので、ついでに嫁をつかまえて来ました。
EZOみん
第1話 せつない話
今年、帝国は大陸統一以来、二十六回目の冬を迎えた。
平和の到来に伴って、街道や宿場街、港の整備が精力的に行われた。
結果として物流は大発展を遂げ、皆がその恩恵を享受していた。
今では最下層の庶民すら様々な嗜好品を消費し、楽しむようになった。
早い話が贅沢になったのだ。
従って、気の利いたディナー――まして二人が出会った記念日のディナーなら、少々高くついても、この冬のトレンドであるトルチ(南方大陸の果物)のシャーベットで締めくくりたい、と妻が主張しても無理はない。
だが、僕は即座にそいつは馬鹿げている、と言い放った。
で、結婚以来数十回目の大喧嘩をやらかし、レストランに一人寂しく取り残される羽目に陥った訳だ。
せつない話だが、世の中、良い事と悪い事は表裏一体なのだ。
街道が整備されて便利になった反面、国勢調査官と称する小役人が、数年毎に小さな村にまで押しかけて来るようになったのもその一例だろう。
奴らは貴方の個人情報を、根掘り葉掘り聞き出そうとする。
挙句、毎晩酒場に居座って金も払わずビールをがぶ飲みし、皇帝陛下への忠誠歌をどら声でがなりたて、静かな憩いの夕べを台無しにするのだ。
労多くて益少ないこの職業は、こうした振る舞いによって益々不人気になり、深刻な後継者不足に悩んでいる。
実はこれに関しては、個人的にいささか責任がある。
悪名高い征服王……おっと「人民の解放者、偉大なる国家の父、唯一神アスターニャの現世全権代理人、ロアン大陸の守護者にしてバルト帝国始皇帝(あと言い忘れた事はなかっただろうか?)、ラドラム・エル・バルト皇帝陛下」が任命した最初の国勢調査官達。
その一人が僕だったのだ。
調査の過程で僕達が食事や宿の面で村人の好意に甘えた(そして感謝の意味でそれを報告書に記述した)おかげで、以降の国勢調査官がえらく厚かましくなったのは事実である。
だが、主街道すら妖魔が跳梁していた当時の旅は、命がけそのものだった。
帝国がちゃんと把握していたのは、大都市とその周辺部のみだ。
街道をそれた先に何があるか、誰が住んでいるのか、ほとんどなにも知らなかった。
実質的に、未踏破の場所の方がずっと多かったわけだ。
だからこそ、大々的に国勢調査が行われた。
それは疑いなく重要な使命であり、同時に危険と困難に満ちた旅路でもあった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます