日輪と月輪のアンリミデッド

水定ゆう

第1話

時刻は真夜中。2時を回ったいわゆる丑三つ時だ。

あたしたちの住処の町は、ごく稀にこの時間、

だから私たちは、今日も武装する。


わたしたちの暮らすこの町は、日々信仰を繰り返している。それは人に視認でき、精神を狂わす魔物だ。普通の人には対処できないそれを、私たちは今日も戦いを挑むのだ。


◇◇◇


夜の町をあたし鳴上なるかみ日菜ひなと双子の可愛い妹の月氷つきひは駆け抜ける。対照的なローブを身にまとい、赤と青とが点々と彩っていく。

腰には、それぞれが色の違う拳銃をホルスターに収納している。そして町をかけるのだ。


今日やることは、その魔物を狩ること。

魔物は人の心につけ込む。私たちは、それを『シャドウ』と呼んでいる。それを倒すために必要な拳銃こそが、特別な拳銃で私たちのホルスターに装填されているのは、最もそれだ。


「月氷、そろそろ見えてくるけど、準備はいい?」

「ええ、姉さん」

「その表情、いいね。じゃあ、いくよ日輪!」

「月輪!」


私たちはそれぞれが銃を引き抜いた。

そして目の前に現れた黒い影は、叢雲のような色合いの銃弾を放った。



私はその瞬間に、引き金を引いた。

形状は、22口径。しかしそれは実弾ではない。薄く赤い、マゼンダの蛍光色の椎の実形状の銃弾が放たれた。そのどれもがしっかりとした軌道を描きながら、放たれた黒い弾丸を弾き返す。そして、地面に落ちて消滅した。


「……」


目の前のそれは言葉を発しない。

言葉が喋れないのか、なんなのかはわからないけれど、敵意をむき出しにしていることは確かだ。所々から、殺気混じりの瘴気が溢れて出る。姿は、カウボーイが近い。つば広のキャトルハットから覗かせる顔は、まるでロボットのようで、目的だけ与えられている。少なくとも、私にはそう見えた。


「凄い殺気。怯むな、私!」


自分で自分を鼓舞する。

膝を叩いたのと同時に、次の弾が放たれた。

今度はより早く、貫通度が上がっていそうで、私は即座に右に飛んでいた。後ろを通過した弾丸が、何もないところで掻き消えた。どうやら、壁に当たって音が夜の街に響いたのだ。つまりは、音響弾だった。


「なめられてるのかな、私?だったら、本気にさせなくちゃね」


私は意気込んで、引き金を引いた。

同時に、何発ものマゼンダの弾丸が正確な軌道を描いて飛んでいく。そのどれもが生き生きとしていて、まるで打ち上がった花火のようである。

しかし、それは瞬時に消滅した。カウボーイが引き金を引いたのだ。そして、それが着弾する前に全て撃ち落とし、カランという音がした。まるで空薬莢からやっきょうでも落ちたみたいにだ。


直後、今度はカウボーイの方が引き金を引いた。一瞬の出来事だった。パーンと言う発砲音がしたからだ。私は躱せなかった。躱せないのならと、引き金を引く。無尽蔵のエネルギー弾が、空を切った。

私の目前まで到達した黒い弾丸は、私が目を閉じるのと同時に弾け飛んだ。そんな音がした。


私が目を開くと、そこには消滅していくシアン色のライフル形状の30口径。私の放った銃弾よりも、8口径も大きい。


「月氷!」


「間に合った」


私は胸を撫で下ろした。

そして再びスコープを覗き込む。そこには、ハッとした姉の姿があった。私はその姿を見て、ホッとした。


私たちの持つこの拳銃はただの拳銃ではない。パーツを付け替えることにより、ライフルにもリボルバーにもなる。サイレンサーを外し、リロードするように本体をグリップごと押し込む。

拳銃にして、再び走り出した。大切な姉のために。この町のために。


◇◇◇


目の前のカウボーイは依然として雄大な構えで、私に向けて銃を向けている。しかし、言葉を発しない。私は唇を噛んだ。そして、瞬時にグリップを引き、シリンダーを装填した。弾は6発だ。

スピードと比較的扱いやすい点を利用して瞬時に切り替えた。そして、後退せず前進した。そして傾きを利用し、重心をずらし初弾を躱す。そして発砲。


3発の弾を瞬時に放ったが、うち2発は暗がりに消えて行く。残りの1発も瞬間的に放たれた一発になすすべなく落ちた……はずだった。


スドーンという音の後に、キューンという音がした。そして直後に何かにあたる音がした。私は見るまでもなくわかっていた。なぜなら、信じていたからだ。を。


「おそらく姉さんは、野生並みの感の鋭さで、気づいているはず」


私にはそう理解できていた。

何年も連れ添った家族だ。大体のことはわかるし、行動パターンもだ。けれど、時に姉さんは考えもつかないことをやってしまう。きっと今回もだ。それを予測することは、星の数ほどできないし、だから私はそれに合わせるだけだった。


狙いを絞る。だった1発、いや、2発に込めた。その一瞬の閃きと知識は私に与えられた才能だ。姉さんが、「体」を司るなら、私は「智」だ。そう思えた。だから、私は……


バキューン!


轟音が轟いた。

そして拡散するように、2発のシアン色の弾丸はマゼンダの弾丸を押し戻した。


私の目の前には悶え苦しむような表情を見せるカウボーイがいた。そのロボットの装甲は剥がれ、黒い液体が漏れる。それはまるで人間の血液のようだが、もやのように見える。


「やった、成功!さっすが、月氷。あとは、私に任せて!」


私が銃の引き金に指をかけた瞬間、違和感がした。いつもの「感」だろうか?そう思った。心の中で、こう囁く。


(一旦退け!)


そんなのだった。

私は引き金を引くのをためらって、離した。しかし時すでに遅かった。


私の真上には、


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る