アクトノイド ープロトタイプー

明弓ヒロ(AKARI hiro)

第1話 プロローグ

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男「ずっと君を愛していた」

女「なんで今更そんな事言うの。もう何もかも手遅れだってわかっているでしょう」

男「君とは釣り合わないとわかっていて、諦めようとおもっていたけど、でも、どうしても諦めきれないんだ!」

女「あなたは本当に口だけね。だったら、力ずくで私を奪ってみたら。そんな勇気もないくせに!」

男「僕は君を傷つけたくなくて……」

男の声がうわずる。

男「僕といるよりもあいつの方が君を幸せにできると思って……」

男の声が震える。

男「僕は‥、僕は、いや、俺は誰にも君を渡さない!」

男が女を抱きしめ、女の唇を激しく奪う。

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「カット」

 監督の声がかかり、私はフェイストラッキング付きHMDを外した。


「あいかわらず君の演技は凄いね。こんなありきたりのストーリーでも、思わず涙が出ちゃったよ」

 監督が見え透いたお世辞を言った。

「思わず、本気で好きになっちゃいそうだよ」

 相手役の男もワンパターンの台詞。そういえば、こいつの名前なんだったっけ。

「ありがとうございます。なんだかんだいって、ラブストーリーは需要がありますからね。結局、単純な話が喜ばれるんですよ。また、ご一緒できることを楽しみにしています」


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「ミカさん、お疲れ様でした」

 さっさと現場を後にして楽屋に戻ると、マネージャーのリカがドリンクを渡してくれた。

「今回の現場はどうでした?」

「なんのひねりもないワンパターンのストーリーで、特に相手役が最悪だったわ。昔の女優はたいへんだったよね。仕事だからって、あんなのとキスするとか信じられないね。ベッドシーンとか絶対無理」

「そうですよね。生まれつき容姿にも恵まれてないといけないし」

「モデルの寿命尽きた奴が、これからは女優やりまーすとか、素人を自然でナチュラルな演技とかいって使ってたからね。下手くそな演技なんか見せられたら、頭痛が痛いっての」


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 21世紀初頭、人型ロボットの実用化が検討されたが、ディープランニングが期待はずれに終わり、最終的に自律型ロボットの実用化は失敗した。一方、医療用の人工皮膚と人工筋肉が急速に発展し、これらを使うことで、外見と動きは人間と全く区別がつかなくなった。

 人間が操作する俳優ロボットアクトノイドが、ハリウッドで最初に使われると、外見も年齢も自由に設定でき、スタントいらずで危険なアクションシーンや、ハードな性描写もこなせることから、生身の俳優をわずか10年で一気に置き換えた。

 そして、俳優ロボットアクトノイドの表情、声、身体表現をを自由に使いこなす、アクトノイド・オペレーターとして、容姿に恵まれないが演技の才能のある俳優が一躍脚光を浴びるようになった。


 高校の演劇部で活躍していたミカが、アクトノイド・オペレーターとしてデビューすると、フェイストラッキングによる類まれな表情表現、モーションキャプチャーによるアクションスター並みの身体表現、そして、ベテラン声優にも劣らない声の演技で、一気にスターダムへとのし上がった。

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