第49話 長女
「……それは本当なのか?」
クディルは猫背になってもたげた首を、こくりと縦に振った。
「はい。私の家に保管されておりました、あなたのおばあ様であるメドゥーサさんが邪悪なものに憑りつかれていた時に描かれたスケッチが残っていたのですが、その姿そのものだったんです」
ガイスは額に手を当てる。よりによってサーガス王国で暴れている蛇が、祖母の姿とっているとは。彼は嘆息する。
「それで、その大蛇はどうにかならないのか?」
「サーガス王国でも対処を考えておりましたが、中々上手くいきませんでした。戦おうにも剣も矢も効かないのです。そのため、私と母は密かにそれに対抗する武器を用意しました」
「武器?」
「ええ。それは私の家系に伝わる剣で呪術がかけてあるので、邪悪なものの塊である大蛇でも有効です。そしてそれを元に、大蛇に対抗できるようまじないを強めました。ただし、それだけでは大蛇には勝てません」
「では、どうするのだ」
ガイスの質問に、クディルは母親とは似ておらず、柔らかい印象の目を細めた。
「だからこそ、メレンケリさんに母は全てを話すことにしたのです」
ここまできて、どうしてクディルがここに尋ねて来てわざわざ話をしに来たのか、そしてなぜフェルミアがメレンケリに全てを話すことにしたのかをガイスは悟った。
「まさか……」
「ええ、そのまさかです。メレンケリさんの力を持って、その蛇を退治しようということになりました」
「……」
「本当は母もメレンケリさんに危険が及ぶようなことはしたくないと言っていました。ガイスさんの娘さんですし。ですが、もう私たちには大蛇を封印できるような力は残っていません。もし私たちに力があれば、封印の石を作り戦うこともできたでしょうが―……」
そう言って、クディルは俯いた。
「呪術師の技術は失われつつあり、封印の石は作れません。継承者である私も母が持っている技術を真似する程度で、発展することもないでしょう。ですから、メレンケリさんに頼らざるを得ないのです」
クディルの話を聞いてから、ガイスは暫く沈黙していた。そしてクディルも彼が話始めるまでお茶を飲みながら待っていた。そして、ついにガイスは大きく息を吸って吐き出すと、組んでいた手をぎゅっと握る。
「あの子には、苦労ばかりさせてしまう……」
ガイスは顔に苦悩をにじませた。
「ガイスさん……」
「私はこの右手の力は、長子に引き継がれていくものだと思っていた。それも男だ。だから、私の子供の中で長男であるトレイクが引き継ぐものだと思っていたのだ。しかし、運命は違った。二番目に生まれた娘、女として長女であるメレンケリがこの力を受け継いでしまった」
「そんなことが……」
「驚いたよ。こんなことがあるのかと。そしてトレイクに力が引き継がれたのだとしたら、それなりに自分のやり方を教えてやれたと思うのだが、メレンケリは娘だ。どうにも難しくてな。私は男兄弟しかいなかったし、女の子にどう教えたらいいのか分からなかったのだ。時には叱りすぎたということもある。だけど、どうしても自分の二の舞を踏んでほしくなかった。それが願いだった」
「……」
「だが、いつしかあの子は笑わなくなった。泣かなくなった。感情を表に出さなくなったんだよ。それから、物事を淡々と受け取るようになった。これでよかったのか、と思っている矢先、今度はサーガス王国での蛇退治。本当…あの子の運命はどうなっているんだ……」
ガイスがメレンケリの運命を憂いていると、クディルが言った。
「いえ、もしかしたら選ばれたからこその運命なのかもしれません」
その言葉に、ガイスは俯いていた顔を上げた。
「どういうことだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます