第46話 闇に差す光

 メレンケリの質問に、グイファスとマルスも聞き入っていた。もし、元に戻す力があるというのなら、きっと彼女にとって救いになるだろうと思っていたからである。

 だが、フェルミアの答えは彼女が求めているものではなかった。


「残念ながらない」

「ない……」

「ああ。ないね」

 メレンケリはゆっくりと下を向き、俯いた。

「それはあんたの曾祖父も祖父も、そして父親も考えたことだったけど、その右手で石になった者たちを戻す術はない」

「……」


 フェルミアは寂しそうな表情をしながら、メレンケリに告げた。

「あったら、あんたの父親だって親友を救えたはずだろう?」

 そう言われて、メレンケリはぱっと顔を上げた。フェルミアは悲しそうな顔に、無理に笑顔を作る。


「父のこと……知っているんですね」

 フェルミアは頷いた。

「ああ。知っている。私は寧ろ、あんたがガイスの過去を聞いているとは意外だったけどね」

「……つい先日、あなたのことを聞いたときに教えてもらったので……」

「そうか」


 フェルミアはふうと大きく息を吐き、天井を見上げた。

「石になった者を解放して欲しい、という願いは私の祖先も聞いたことはあるんだ。本当に数えるほどだけどね。誰しもが間違いをして、失敗をしてきた。そのたびに、私たちを頼って来てくれるんだが、どうしようもない。元々『大地の神』の力が与えられてできた力だ。私たちの術をもってしても、それはどうすることもできなかったんだ。力不足ですまなかったね」


 メレンケリは首を横に振った。


「そんな……フェルさんが謝ることではありません」

 自分と同じく悲しい顔をしているメレンケリの肩に、フェルミアはそっと手を置く。


「いや、もし私たちに石になった者を元に戻せていたら、きっとアージェ家の人間はもっと穏やかに暮らせただろうなと思うのだ。だから、それはそう思わせていてくれ。あんたたちの責務を負えない代わりに、せめて気持ちだけでも支えられたらと思うのだ」

 メレンケリはフェルミアの手に自分の左手を重ねた。

「フェルさん、ありがとうございます」


 石にした者を戻す方法はなかった。だが、メレンケリは十分だった。


 右手に宿った力が何処から来たのか知ることができたし、その理由も曾祖父が曾祖母を助けるためだった。

 もしあの時、ラクトがメドゥーサを救わなかったら祖父は生まれていなかったし、祖父が生まれなければ父、そして自分もこの世に生を受けることはなかったのだ。

 自分の手は確かに人を不幸にしてきた。

 それは変わらない事実だが、単純にこの右手が「最悪」なわけではないと知って、メレンケリは心の中の闇に少し光が差した気がしていた。

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