第3話 白い右手

 グイファスの取り調べは、三日間に及んだ。


 体罰も与えたが、一向にグイファスは「宝石を盗んだこと」以外発しなかった。これ以上何を問うたとしても、彼の口からはそれ以外の言葉は出ないと思われた。

 そして、問いただすことに疲れてきた軍人は、メレンケリの力を脅しに使うことにした。


「グイファス。真実を語らないというのなら、こちらにも手がある。お前を石にしてやる」

 するとグイファスの金色の瞳が、急にきらりと揺れた。

「石、ですか?」

 不思議なものを見るような目で、軍人を見つめる。

「ああ、そうだ」

「私を石にすると?」

「そう言っているだろ」


 すると、グイファスはくすりと笑った。


「まさか、ご冗談を。軍人ともあろう方が、そんな子供だましを仰るなんて。驚きました」

「だったら見せてやる。おいで、メレンケリ」


 名を呼ばれたので、メレンケリは取り締まり室に入ってきた。スカートをはいた女性だったからだろうか。グイファスは物珍しいものを見るように、メレンケリを金色の瞳で見た。


 メレンケリは、青みがかった灰色の瞳をグイファスに向ける。

 その間に軍人が赤く熟したリンゴを用意して、テーブルに乗せた。


「さあ、メレンケリ。このリンゴをいつものように石にしてくれ」


 メレンケリは、こくりと頷くと、手袋をはめていた右手を顕わにする。その手はなんの変哲もない、若い娘の白い手だった。グイファスはその手に興味がそそられたのか、じっと見つめる。

 メレンケリは、そっと右手でりんごに触れる。すると、触れた場所から少しずつ変化していった。りんごは「パキパキ」と、異様な音を立て、灰色がかった色になっていく。そして全てが石になるまであまり時間はかからなかった。


「真実を言わなければ、このように石にする」

 軍人は勝ち誇ったように告げたが、グイファスはりんごをじっと見つめたままだった。

「石になったりんごは、元に戻らないのか?」

 グイファスは尋ねた。

「当たり前だろ」

 だが、グイファスは低い声で言い返した。

「すみませんが、私はあなたに聞いたのではなく、この娘に聞きました」

 グイファスの金色の瞳が、メレンケリを捉える。「お前が答えろ」と目で訴えていた。

「……ええ。元には戻せないわ」


 メレンケリは毅然として答えた。いつも通り、どんな男に対してもそうしてきた。ここは軍事警察署。自分の罪を問われて入ってくる。だから、メレンケリは人質になったりしないように、細心の注意を払い、しっかりとした態度で臨む。それはいつだって変わらない。


「そうか……できないのか」


 グイファスはさもつまらなそうに、声を出す。

 メレンケリにとってそれは初めての出来事で、感情が揺れた。


(この男は、動揺していないのだろうか)


「元に戻す必要なんてないもの」

 すると、グイファスは言った。


「それは、切ないな」


(切ないって何?)


 メレンケリが尋ねようとすると、軍人が彼女の背に手を添えて部屋の外の出るように促す。


(何なのよ……あの男……)

 メレンケリは珍しくイライラしていた。

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