21 あなたに、笑っていてほしいから。

 あなたに、笑っていてほしいから。


「こんにちは」

 まりもが家の縁側から、ぼんやりと空から降り出した雨の降る庭を眺めていると、そんな声が玄関から聞こえてきた。

「はーい」

 まりもはそう言って、縁側から玄関に移動した。

 するとそこには、今日はちゃんと傘を持っている秋葉小道さんがいた。(それは、小道さんにはちょっとだけ似合わない赤い傘だった)

「小道さん。どうしたんですか?」

 まりもは言った。

「いえ、ちょっと、時間ができたもので、……お邪魔でしたか?」

 そう言って小道さんは頭の後ろを手でかきながら、照れくさそうな顔で笑った。

「別にお邪魔じゃありませんよ。どうぞ」

「お邪魔します」

 小道さんは言った。

 まりもは小道さんを家の縁側まで案内した。

 小道さんはそのまま、まりもの実家である双葉家の縁側に腰を下ろして、降り出した雨の降る庭を眺めた。

 まりもは台所でお茶を二人分入れて、それから小道さんのいる縁側まで移動した。


「雨ですね」

 まりもが隣に座ると、小道さんがそう言った。

「そうですね」

 そう言ってまりもはにっこりと笑った。

「雨を見ると、思い出すことがあるんです」と小道さんは言った。

「……亡くなった奥さんのこと、ですよね」とまりもは言った。

「そうです」

 と小道さんは言った。

 それから二人は沈黙した。

 二人は黙ったまま、ただ雨の降る庭を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る