20

 それからあとのことを、まりもはあまりよく覚えていなかった。

 ただ、気がつくとまりもは真っ白な病院の中にいた。

 それは朝顔と紫陽花と、……それから、川の中に流された秋葉小道さんが入院をしている病院だった。

 朝顔と紫陽花は一命を取り留めた。

 お医者さんの話だと、もちろんその行為自体は褒められた行為ではないけれど、もし小道さんとまりもが川に飛び込んで二人をすぐに川岸にまで、送り届けていなかったら、二人の命はおそらく助からなかっただろう、ということだった。

 まりもは警察のかたに怒られたり、それから褒められたりして、そして木ノ芽さん夫妻からすごく丁寧なお礼を言われた。 

 まりもはとにかく、朝顔と紫陽花が助かってよかったと思った。

 本当にただそれだけであとのことは、別になにも気にしていないと木ノ芽さん夫妻に言った。

 まりも自身も一日だけその病院に入院した。

 そして、次の日、退院をしたまりもは、その足で、そのまま小道さんが入院している病院の病室を訪れた。

 とんとん、とまりもは病室のドアをノックした。

 すると「はい」と部屋の中から声が聞こえた。

 それは小道さんの声だった。

 まりもが病室の中に入ると、そこには真っ白な病室の中にある、真っ白なベットの上にいる、真っ白な入院服を着て、窓を開けて、そこから入ってくる風に気持ちよさそうに目を細めている、頭に包帯を巻いた、秋葉小道さんがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る