10

 小道さんはずっと、真剣な顔でまりものことを見つめていた。

 それからしばらくして、ふとまりもは少し前に朝顔と紫陽花が新しい隠れ家を探している、という話をしていたことを思い出した。

 そのことをまりもは小道さんい話した。

「新しい隠れ家? それはどこにあるんですか?」

 小道さんが言う。

「それは……」

 まりもは思い出そうとする。

 確か、それは……、川の近くの……。

 そこまで思い出したところで、まりもははっとして、その元から大きな目をさらに大きく見開いた。

「思い出したんですか?」小道さんが聞く。

「はい」

 まりもは言う。

「それはどこですか?」

 小道さんが再び同じ質問をする。

「……川の近くです」 

 震えた声でまりもは言う。

 そして実際に、声だけではなくて、まりもの体も小さく震えていた。それは降る雨の冷たさのせいではなかった。

「それは、川のどのあたりですか?」小道さんがまりもに聞く。

「そこまでは、わかりません」

 まりもは言う。

「わかりました。川には私が向かいます。双葉さんはこのことを警察のかたと、それから木ノ芽さんたちに伝えてください」

 小道さんはまりもにそう言うとそのまま雨の神社の中を、街の中にある大きな川に向かって駆け出して行った。

「小道さん!」

 まりもは叫ぶ。

 すると遠くで小道さんはまりものほうを振り向いて、まりもを安心させるようにして、にっこりと笑った。

「大丈夫! きっと大丈夫ですよ!」と小道さんは言った。

 それからまた、小道さんは強い雨の中を一人で走り出していった。

 その背中を見て、まりもは自分のやるべきことを理解して、すぐにもう一度、雨の中を走り始めた。

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