死にたがりと黒いハット帽の男の話

月詠 キザシ

第1話


その日は余りにも寒かった。

私は、私の事を好きだと言った人と会っていたの。

その人は私に告白したけれど、全然まだお互いのことを知らなかったから友達から始めよう、なんて在り来りな言葉でその時はその場を乗り越えた。

これまで何回か会って話をしてきたけれど、どうしても楽しいと思えなかったの。

私はきっとこの人の事を好きにはならないと思っていたのもあって、今日を最後にするつもりだった。

私はずっと一人で抱えてきたことをその人に全部ぶちまけたわ。

親がクズな事。

自分の将来が不安で黒く塗りつぶされてしまっている事。

私の中には何人もの私がいる事。

どうしたって上手く生きられない事。

自殺を考えている事。

でも怖くて結局死ねない事。

全部全部ぶちまけた。

そうして最後にこう言ったの。

「…貴方が好きになった明るくて可愛らしい私なんていないのよ。これが本当の私なの。私が貴方を好きになる事もないわ。…これで最後よ。さようなら」

そうして私はその人に背中を向けた。

少女漫画ならここで駆けてきて背中から抱きしめるシーンよね?

でもこれは少女漫画じゃないから、そんな事は起こらなかった。

でも代わりに、もっともっと不可思議な事が起こったの。

「やあやあ素敵なMademoiselle。僕といっしょに夜空の散歩はどうだろうか?」

私の目の前には、黒いハット帽を被った背の高い男が立っていたのよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る