第13話ラポという男(2/3)

「どんだけ恨み買ってたんですか!?あれはついでに鬱憤晴らそうってレベルじゃないでしょう!」

「て、テヘペロ」

「あああぁもう!死ね!どうすんですかぁ!」

「はっはぁ!いやあエドのやつも余裕がねぇなぁ」

「だから!」

「逃げきれん。だからこのまま大回りで何でも屋まで逃げ込むぞ。で、依頼しよう。助けてくれってな!」

「うー、じゃそれでぇ!」


 その騒ぎを聞いた住人達の対応は慣れたもので、巻き込まれたくない者は早々に逃げ出していた。

 一方、観戦を決め込んで酒を片手に居座る人間も一定数存在する。自分に被害が及ばぬとわかれば、酒の肴にこれほどのものはない。


「ラポ、この辺りの道分かります?」

「多少は。地図見せろ」


 トロイは半ば役に立たなくなった地図を渡そうとするが、走りながらでは上手くいかず、何回目かにしてようやくラポが受け取ることになった。それが全力疾走で疲れの目立つトロイの体力をさらに消耗させる。

 騎士達を引き連れ逃げ続け、大回りながらも進行方向が何でも屋に向いた頃、大小の段差が増え始めた。

 疲労困憊のトロイが段差に足を取られ転倒したところを、抱き抱えるようにしてラポが助けた。そのまま喚くトロイを肩に担ぐと、更に速度を上げ、騎士達を引き離しにかかった。


「エドさん。あの二人めっちゃ早くないすか?」

「ああ。足引っ張ってた方をラポさんが担いだからな。このままだとあの体力バカに置いて行かれる」

「どうします?」

「先回りしてとっ捕まえる。一分もかからない。

 なに、あの人に引っ張り回されて俺も大分鍛えられた。行動パターンも把握してる」

「うす。挟み撃ちっすね」


 エドは騎士の一団から離れ、一息で屋根に飛び乗ると先回りするために駆け出した。


「エドさんも大概だなー」

「急げ急げ!遅れたらエドにどやされるぞ!」

「じゃ、二人組から離れすぎないようにして後ろに注意を向けさせてやりやしょう。エドさんに気付かれないように。

 いいですか?今まで通り適度に距離を取るのが肝心で、そうすりゃエドさんとの合流がスムーズにいくっす」


 兜からはみ出た赤髪を押し込みながら細身の騎士が提案すれば、残された騎士達は納得し、エドの奇襲を確実にするために怒声を張り上げて注目を集めることにした。

 騎士達の動向を注視していなかったラポは、突如響いた罵倒に押され、さらにペースを上げた。


「あー楽ちん。

 後ろから野次めっちゃ飛んできてまーす。頑張って引き離しにかかって、どうぞー」

「てめっ、誰のお陰で余裕ぶっこいてられると思ってんだ!叩き落とすぞ!」

「でもでもー俺に出来ることないですしー。がんばれがんばれ」

「ぬ、っぐ、おい!もう直ぐ着くぞ!」


 二人の暫定勝利条件は何でも屋への到着。

 大通りはとうに抜け、街灯が減りつつある狭い路地裏。

 喧騒を引き連れた二人の目指す目的地は近い。

 だがそれを許さない者がいる。

 見事先を行ったエドが、全身鎧の重量を感じさせない身軽さで屋根から飛び降りた。空中で身を翻し、着地と同時に剣を構え、ラポに獰猛な笑い声を上げて切りかかった。しかしスピードの乗ったラポの巨体はそう簡単に止まることはなく、鎧に剣を弾かれたエドは強烈なぶちかましを受けることになった。

 剣を取り落とし無様に吹き飛んだエドは強かに壁に打ち付けられ、般若の如き形相でピクピクと痙攣し、噛み締めた唇から血を流しながら意識を手放した。


「エドさん、でしたっけ?いいんですか?」

「…野郎が本気じゃなくて助かった。なんだかんだ言って俺を逃がす為に一芝居打ってくれたんだろう。

 くぅう、なんて先輩思いの後輩だ!」

そういうとこ・・・・・・ですよ、ほんとに」

「あぁ?っるせぇなぁ。

 とにかくこれで何でも屋に泣きつかなくてもすみそうだぜ。引き離した奴らから匿ってもらえば事足りる」

「ラポの普段の行いが良ければこんな無駄な苦労は背負わなくてすんだんです。

 さ、突き当りを右に折れたらもう、そこですよ」

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