第11話怪物

 その怪物は世界の始まりと共に生まれたとされている。

 怪物は黒く艶やかな長髪に、大男を見下ろすだけの背丈を持ち、無数の鈴がついた黒い衣服とマントに身を包んだ姿をしていたと多くの書物に記されている。また、数々の御伽噺では悪役として登場し、散々に悪事を働いた末に封印されてしまう。

 主人公として描かれることのないその怪物が悪役以外で登場する際は、迷える主人公に尤もらしい助言をすることが多く、しかしその助言はしばしば主人公を危機に陥らせるため、どんなことでも鵜呑みにするべくきではない、という一種の教訓に近い役割を担っている。

 そして、記される書物によって多少の差異はあれど、一貫して力が強く、目が良く、変身し、決して死ぬことがない化物として描かれた。

 長い歴史を持つラジエンテでは数十年あるいは数百年毎に、怪物を見た、そう名乗る者に会った、と証言する者が大勢現れる。法螺と言い切るには余りに多いそれらは、ラジエンテで活動する歴史家は度々困らせていた。しかし近年では、所詮御伽噺、と、そう切って捨てられる都市伝説になりつつあった。

 そう。

 所詮は御伽噺。

 人伝に囁かれるだけの幻である。

 そうあるべきである。

 肌の色が違う人種を受け入れ、異なる言語を話す異国の民を受け入れ、僅かに人から離れた亜人を許容できようとも、怪物を受け入れることはないのだから。

 しかし、もし怪物が力を無くし、心を持ち、同じ言葉で語りかけてきたらどうだろうか。歴史が示したように、またしても御伽噺となり果てるのか。あるいは、今度こそ隣人になり得るのだろうか。

 その答えは、まだどこにも記されていない。

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