第3話門
見上げると首を痛めそうになるくらいに大きく、左右のどちらを向いても終わりが見えない、限りなく続く暗色の城壁には、一定間隔で巨大な木造の門がある。そこをくぐると青、白、赤、黒に色分けされた小さな門がいくつも存在し、それぞれの扉の前には武装した門番と無秩序に並ぶ人々がいる。
トロイはその人の海をかき分けながら赤の門を目指す。
ようやくたどり着くころにはすっかり疲れてしまい、整列を促す門番の怒声に首をすくめた。
腹の虫の鳴く音が周りに聞こえるのも慣れてきたくらいで、ようやくトロイの順番になり、首から下げた探索者協同組合の会員証を門番に見せた。
「やや、この時期にご苦労様です」
その門番の男の声は、面頬でくぐもって聞こえたが、どうやらトロイと変わらないくらいには若いようであった。
「お疲れ様です」
お互い適当に会釈をすると直ぐに後続が続き、トロイは慌てて赤い門扉をくぐった。
出発前と別段変わらない街並みを眺めながら歩いていたトロイは、大通りの突き当りにある探索業共同組合を目指してふらふらとした足取りでそこへと向かった。
探索業協同組合は通称をギルドといい、探索者と呼ばれる日雇いの人足への仕事の斡旋を行っている組織で、赤の地区に住んでいる者の多くは利用している。
トロイがそのギルド入り口のドアを押し開けると、錆にまみれた丁番が抗議の悲鳴を上げ、ドアをくぐれば木屑が金色の髪にまぶされる。籠がつっかえないように注意して進めば安っぽい長机が整列した酒場が広がっており、その奥にトロイの目的の依頼受付窓口がある。
酒場スペースにあるどの机にも探索者たちがひしめいている。小さな椅子を取り合うようにして尻を押し込め、仕事仲間と談笑する彼らは、手に大きなジョッキを持ち、机に並んだ料理を、なみなみと注がれた黄金でもって流し込んでいく。
汗、油、ヤニ、アルコールの臭いが混ざった淀んだ空気漂うその中を、いささかのつっかえも見せずにトロイは進んでいく。
時折香る揚げ物とソースの香りは、考えないようにしていた空腹をトロイに思い出させた。トロイは、ここにきてまたしても自己主張を始めた腹の虫をなだめ、報酬を受け取るために窓口へと向かう足を早めた。
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