からめた指が運命のように

ゆずか

甘くハジけた。

第1話

 なんで、人間って臆病なんだろう。想いを伝える時、いつもそう。

今日はバレンタイン。

彼氏のいる私は昨日の夜、手作りでチョコを作った。

でも、今そのチョコの入った小さな箱は、床へと落ちた。


「ごめん、別れたい」


 ごめんって言うなら、そんなこと言わないでよ。

そう思うと同時に、涙が溢れた。嫌だ、別れたくない。

そう言いたいのに、声が出ない。


 よくショックで手に持っていたものを落とすっていうシーンが、ドラマでもあるけど、まさに今その感じ。

前なら、彼氏のじんが好きで堪らなかったのに。今、この瞬間想いが冷めた。


「仁っ、」


 最後に名前を呼んだ時には、もう仁の姿はなくて。

 学校の廊下で、バレンタインにチョコの入った箱を落として泣いてる女の子って、どう見えるのかな。

 どうしたのかなって思う?振られたのかなって思う?


 要するに、可哀想な子に見えるってわけか。



「先輩っ」



 運がいいんだか悪いんだか、私の可愛い可愛い後輩が廊下を全力ダッシュで私に向かってくる。

察してよ、泣いてることくらい。



「どうしたんですか…?」


そう顔を覗き込みながら言う、後輩の尚也なおや

下に落ちていたチョコの入った箱を手にして、尚也は察しがついたのだろう。



「彼氏さんのこと、ですか」



コクリと頷く私を見て、尚也はフゥ〜とため息をついた。



「先輩、このチョコ、僕に作ってくれたんですか?」


笑いながら言う彼は、きっとこの空気を明るくするために言ったのかもしれない。

でも今この彼氏に振られたばかりの状況で、この冗談は私にはキツい。




「もう、捨てる…から」


「…そうですか」



いつもなら、こうじゃないのに。

こんなこと、ないのに。




「僕のチョコは?」


そう兎のように丸い目で、見つめてくる彼。

そのウルウルとした瞳には、はっきりと私が映っていた。



「ないんですか、?」


「ごめん…」


「じゃあ、なんかください」



何か、そう言われて思いつくものなどない。

まして男の子となっては、もっと分からない。




「何が欲しい?」


「んー、先輩が欲しい」


「は、?」


「先輩を食べたい」



そんな可愛い顔をしてもダメだよ。

そう言えば、むぅっと顔を膨らませる彼は、女子よりもかなり可愛い。



「今日、クレープ食べに行く?」


「先輩がいい〜」


「じゃあ、行かない」


「え、食べますってば!クレープ!」





こんな後輩が、可愛くて仕方がない。

でも、こんな後輩も男だったり。

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