拒絶に恋

葵衣 旅

第1話

ずっと純黒だった髪をグレーに染めた。メイクをした事はほとんどなかったが毎日するようにした。理解しえない痛みに耐え、片耳だがピアスを開けた。自身の性根を恨み続けた末に生まれた反骨心からの行為だった。躍起になってこうした事は否めないが、ある程度の覚悟はしたつもりだ。

普段高校では女友達としか話すことが出来ないし、男子生徒と会話を交わしたことはほぼない。1度だけサッカー部の先輩に告白されたときに、無言は失礼だと思い勇気を出して「ごめんなさい」と言ったことがあるくらいだ。




外気は丁度良く、気持ちがいい。ひと月前まで咲き誇っていた桜の花弁は、コンクリートの上に落ち、茶色ばんでいる。大学の講義を終え、級友の南匡也みなみまさやと肩を並べて歩いている高岡佐酉たかおかさとりは、土に還っていくだけの花弁を踏まないように常に足元に注意を向けた。


「なんで、桜を踏みたくないんだ?」


この質問は高岡にとって愚問でしかなかった。


「なら南は、ヒトの死体を踏んで歩けるの?」


少々例えがキツすぎたかもしれないが、わかりやすく意図を伝えるには最善の選択であった。


「お、おう…… そう考えたら嫌だな。」


南は高岡の意見に直ぐに同意し、高岡の前に出て一列で歩きだした。普段はとても優しく温厚で、自分の意見を述べることが少ない高岡が一瞬表情を変え、そんなことを言うものだから、南は少し驚いてなんとなく同意してしまった。

南と別れ、一人暮らしをしている自宅アパートの目の前に着いた。10メートル程先だろうか。格好の派手な女子高生が見える。高岡はこの地域は穏便だと思っていたけど、あんな感じの人も居るのかぁ。物騒になったものだ。と思っていただけだった。この時彼は、その派手な女子校生からの大熱視線を送られていたことに全く気づいていなかった。


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