名前を忘れそうな夜に

 名前を忘れそうな夜に

 バケツ一杯のぼくの霊魂

 蛇口にキスした悪霊の真似事

 おれってこんなかたちしてたっけ

 わたしってこんなに震えてたっけ

 夜に空がなくてもだれも気にしない

 カーテンを閉めて目を瞑るだけなら

 名前を忘れそうな夜は霊魂が酸化する音がする

 静けさに耳が腐蝕する恐怖がある

 なにも理由がないのに胸が苦しくなるのなら

 寿命の告知だけがその焦燥を解決する気がする

 名前を忘れそうな夜は思考がひらがなになる

 ひらがなで書かれた履歴書が身近になる

 ぼくの霊魂は文字に書けない

 バケツにたまったまま揺れている

 砂糖のような五十音が沈殿している

 ぼくの名前と霊魂は携帯電話がなかった時代のようにすれ違う

 午前零時に待ち合わせたはずなのに

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