ひとりの人間が死ぬということは

 ひとりの人間が死ぬということは

 神の瞼が閉じられたということで

 永遠に去った記憶の手触りを

 知ることはもう出来ないということで


 ひとりの人間が死ぬということは、

 、

 、

 、


 ひとりの人間が死ぬということは

 身のたけ一尺を加え得ない棺桶に

 無限の空白が生まれたということで

 手向けの花さえ忘却に透けていて


 ひとりの人間が死ぬということは

 ひとりの

 ひとりがいないという哀しみ

 癒えない


 ひとりの人間が死ぬということは

 空っぽの椅子がこの世にまたひとつ

 そのひとつはかけがえのない空席で

 埋めるべきものではない


 世界の終末まで

 どれだけの椅子を守れるか

 わたしは人間性をそう定義していて

 ひとりの人間が死ぬということは

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