空っぽの水筒

 空っぽの水筒に

 夕暮れに流した涙を詰め込んだら

 出かけよう

 だれも泣かない街へ

 そこに積まれた死体の山

 頭を砕かれた子どもの骸

 当然のように逸らされる視線

 水筒から

 涙を少しお裾分け

 旅立った先の荒野に届かないのは

 承知の上で

 見送りに振った手や

 餞別の言葉や

 注いだ数滴の涙

 役に立たない

 喉が渇いた

 眼も乾いた

 水筒が涸渇した

 だれも泣かない街の夕暮れに

 自分は身もこころも染まってしまった

 空っぽの水筒

 もういらない

 詰め込むものが

 もうないから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る