命日

 命日は

 静かに外れよう

 生者の列から

 日常の輪から

 人の死は思い出す価値がある

 そのとき感じた痛みは守るべき義務がある

 それを手放したときわたしは消える

 わたしはわたしが嫌いだが

 嫌うことさえ出来なくなったときにわたしは終わる

 消えることも終わることもどうでもよくなる

 わたしはもうほとんどのことがどうでもいい

 この痛みだけが

 つなぎとめている最後のよすが

 だから人の死んだ日に

 すべてが虚しくなるほど生を疑うことは

 正しい

 この世のすべてがはりぼてに見えることは

 正しい

 日常のそこかしこに放置された亀裂と陥没と血だまりを見つめるのは

 正しい

 命日

 喪失の冷たさ

 暗く冴えて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る