動け、死体

 記憶の死体は道端で黒ずんでいる

 自らの過去で侵されている

 アスファルトを肌とするだれかに

 干からびた祈りを捧げている

 死の倒置法

 汚物めいた檄文げきぶん

 自我の残り香は腐臭よりもひどい

 だれが個人たりえたか

 借りものの言葉

 借りものの衝動

 きみ、おまえ、あなた、それ

 呼びかけの遷移せんいが死体としての認知に役立つとき

 自分がそれと呼ばれる物体であることを過褒かほうと信じて恥ずかしく思うなら

 固まった血を砕きながら動け

 死体が動くことを神は禁じなかった

 その意味を知っているのはおまえだけだ

 それと呼ばれ得るおまえだけだ

 動け、死体

 自分を納得させてから死ね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る