ネットの言葉

 ネットには

 いろいろな人が

 いろいろな言葉を書いている

 半数以上が匿名で顔も見えない

 言葉だけが

 どこからともなく出現したような

 宙に浮いているような

 実在感の稀薄さがつきまとう

 嘘まみれの言葉もあるし

 騙そうと待ちかまえている言葉もある

 それでもその背後には人間がいる

 生きている人間が

 生活している人間が

 自分と同じように


 商品をレビューできるようなサイトで

 自分の好きなものが

 口汚く罵られていたりすると

 思わずむっとして

 その人間が

 他にどんなレビューを書いているか

 ついつい覗いてしまう時がある

 目を覆うような

 罵詈雑言の雨あられ

 たまに思い出したような

 ぞんざいで的外れな機械的賛美

 その記録をたどっていくと

 最初に抱いた怒りは薄れて

 いつのまにか

 痛ましく思ってしまう

 その人間のなにかが見えてきたような気がして

 報われなかった過程が目に見えるような気がして

 きっとその人は

 顔も知らないだれかに憐れまれたところで

 怒り狂うだけだろうけど


 ぼくの言葉も

 顔のないまま

 ネットにぷかぷか浮かんでいる

 だれにも知られなかったり

 だれかの怒りを買ったり

 だれかに憐れまれたりしながら

 同じように


 なにを言いたかったのだろう

 なにを書きたかったのだろう

 わからなくなった

 ただなにか

 匿名で顔のない言葉が

 憎悪をまきちらしたり

 常軌を逸した論理を振りかざしているのを見ると

 人間というのは

 なぜこんなにも痛ましいのかと

 疑問に思う

 人間が不在のネットに

 人間の幻を広げながら

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る