バッハに関するエピソード

 著名な音楽評論家が

 妻を亡くしてしまってからは

 なにも聴けなくなってしまった

 音楽に苦痛すら覚えるようになった

 ただ唯一

 バッハの曲だけは聴くことができた

 バッハの曲を聴いていると

 この不条理で理不尽な世界にも

 なんらかの秩序があるのではないか

 そんなふうに信じることができた


 どこかでそのエピソードを読んで

 とても共感した

 その人の喪失感や痛みを

 理解できるわけではないし

 その人自身もすでに亡くなっているが

 それでも少しはわかる気がした

 勝手にうなずいて共感した

 バッハにはなにか

 そういうところがある

 痛みに触れずに

 痛みを癒すような

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