すこぶる平和

 哀しみが許容量をこえてあふれる

 その余剰は涙としては表象されない

 とらえられない哀しみは

 巨大な壁画のように

 一部を切り取ることはできないから

 ただ、眼が死ぬ

 内側に反響した痛みが眼を殺す

 光は永遠に損なわれてしまった

 感情は賦活されえない

 眼の奥がちりちりする

 胸の底がぐしゃぐしゃになる

 けれどなべて世はこともなし

 すこぶる平和

 すこぶる安寧

 表面は

 秩序に擬態する表面は

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る