幾度も

 なにも読みたい本がない

 なにも聴きたい音楽がない

 これまで幾度

 そんな気持ちが訪れただろう

 いまの自分には

 本と音楽をのぞけば

 生きる理由は皆無に近いので

 それはつまり

 もう生きる理由がない

 というのと同じだ


 それでも

 読み飽きるほど読んだ本に

 聴き飽きるほど聴いた音楽に

 今生の別れのようなつもりで

 もういちど触れると

 そこにはやはりなにかがある

 かつての自分を動かしたなにか

 焦がれるほどに輝くなにか

 それは

 触れるたびに新しく

 本質的に飽きるということがない

 生命いのち

 飽きるということはないのだ

 輝きは死を包含しているから

 魂に新たな刻み目が増えて

 息を吹き返す

 そのときだけは

 こう思える

 生きる理由はないが

 生まれないより

 生きて死ぬ方がいいと

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る