他人の死

 浮浪者は道ばたで死ぬ

 独居者は自室で死ぬ

 その死について

 ぼくは知らない

 言葉を遺した人

 演技を遺した人

 演奏を遺した人

 物語を遺した人

 表現者の死についてなら

 少しは知っている

 その人の遺された表現に触れるたびに

 死んだという事実が頭をよぎる

 毎日毎日だれかが死んだというニュースを目にする

 ニュースにさえならない死がおびただしくある

 死刑囚だって死んだ後の報告で知る

 その人たちについて何も知らない

 その人たちとしか言えない

 抽象的な雲みたいにしか扱えない

 表現者の死は記憶に残る

 表現者は表現を遺して死ぬ

 表現を通してしか世界を実感できない自分のような人間は

 表現者の死にしか反応していない

 それだって空疎といえば空疎な理解だ

 身近な人間の死だって

 本当に実感できているのか

 他人の死はいつまで他人事なのか

 問われている気がする

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