素晴らしい音楽と愚かしい言葉

 いまでも繰り返し何度も聴く

 素晴らしい音楽をかつて生み出した人が

 いまでは繰り返し何度も言う

 愚劣なことを

 差別的なことを


 そのことをどう考えていいのか

 いまでもよくわからない

 作品と人柄は別だ

 まずはそう考える

 時の流れで腐りきったのだ

 そんなふうにも決めつける

 こちらにはうかがい知れない深謀遠慮があるのだ

 そんなふうにも擁護する

 でも許せない

 あれほど優しい音楽を生み出した人が

 人の痛みを侮辱して吐き捨てた言葉を


 いまでも魂を揺さぶる音楽

 それをかつて生み出した人が

 口汚く人を罵り

 むき出しの蔑視をあらわにし

 鼻持ちならない思想を喧伝し

 臆面もなく自画自賛し

 言動のことごとくが

 醜悪にさえ見えてしまうとは

 いったいどういうことだろう


 いまもまた

 かつてその人が生み出した音楽を聴き

 相変わらずこころを揺さぶられて

 そうして

 ひどく哀しくなる

 こんなにも素晴らしい音楽と

 あれほどに愚かしい言葉が

 どうしても結びつけられない

 人間は矛盾するものだと

 わかってはいても

 わからない

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る