牙と羽

 言葉は人間の手に入れた牙だから

 捕食者の暴力がつきまとう

 言葉は人間の柔らかな羽だから

 雛を守るような優しさを湛えている


 あなたは牙と羽を

 どのように扱っているだろうか

 敵対者の肉に突き立て

 大切な者を包んでいるか


 あるいは

 だれよりも傷つけたくなかった相手を傷つけてしまい

 憎んですらいた相手を庇護してしまっただろうか

 あなたの言葉のままならなさによって


 あなたは言葉によって敵を殺せる

 言葉は牙だから

 あなたは言葉によって空を飛べる

 言葉は羽だから


 でも羽によってだれかを抱擁しようとしたはずなのに

 望まずして牙がだれかを血まみれにしてしまう

 そんな悲劇は

 いつだってあなたを襲うのだ

 言葉は牙であり羽であるから

 言葉はあなたでありあなたでないから

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る