スプーン曲げ少年

 スプーンをね 握ってね 曲がれ曲がれ! って念じてみたら 枯花かればなみたいにぐんにゃり曲がったんだ ぼくは驚いて だれかに見せたくなっちゃって お母さん! お母さん! って叫びながら振り返ると 思いのほか近くにお母さんの顔があって 曲がったスプーンの先が眼に突き刺さっちゃったんだ

 あらあら息子よ スプーンはそんなふうに使うものではありませんよ

 そう言い残してお母さんは 泡をふいて気絶しちゃった しつけに厳しいお母さんのことだから 起きたら叱られる! とぼくは思ってね 曲がれ曲がれ! って念じちゃったんだ そしたらお母さんの首が 割り箸みたいにぽっきり折れて 頭が背中にめり込んじゃった これは大変なことになったと お父さん! お父さん! って叫びながら階段をかけ上がると 書斎から出てきたお父さんの股間に ぼくの頭突きがクリティカルヒットしたんだ

 おやおや息子よ そんなに急いでどこに行く

 そう言い残してお父さんは 泡をふいて気絶しちゃった プライドの高いお父さんのことだから 起きたら叱られる! とぼくは思ってね 曲がれ曲がれ! って念じちゃったんだ そしたらお父さんの胴体が 鉛筆みたいにぽっきり折れて つむじと踵がくっついちゃった これは面倒なことになったと 救急車! 救急車! って慌てながら電話をかけると スプーンの話がぜんぜん通じなくて

 お母さんに代わってくれる?

 なんてふざけたことぬかす

 お母さんは首が曲がっています ぼくが事実を正直に告げると

 お父さんに代わってくれる?

 なんてふざけたことぬかす

 お父さんは胴体が曲がっています ぼくが事実を正直に告げると

 つまらないいたずらはやめなさい

 なんて無情に電話は切れた 悔しくて悔しくて 本当なのに本当なのに と涙が浮かんできてね 曲がれ曲がれ! 全部曲がれ! って念じちゃったんだ そしたらまだローンの残ってる家が すごい音をたてて崩れてきちゃった それがぼくがいまこうして 瓦礫に挟まれて死にかけてる理由さ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る