水面から遠い街

 郊外から電車に乗って

 人のざわめく都会まで赴く

 雑沓

 複雑なルールで統制されているスクランブル交差点

 魚群のように行進する影たち

 通りすぎる人々の顔

 数秒後には忘れてしまう他人

 数秒後には忘れられてしまう自分

 ここには人が大勢いるのに

 だれもぼくとは関係がない

 いい気分だ

 まるで水底の廃虚を歩くような

 ターコイズブルーの寂寥

 歩行者がぽこぽこと泡の声をこぼす

 街頭ビジョンが薄青く染まる

 海草の陰で猫が溺れる

 水面が遠い

 ビルの谷間から見える水面

 その向こう側から透けている光は

 水の苦手な神の怯え

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