眼の詩篇

 映画が与えてくれるもの

 風景の表層に見出だされた詩

 視覚によってつづられた詩

 眺める視点さえ変われば

 なんてことのない景色すら詩になると語る詩

 暗闇の中に詩情をたたえたさまざまな人々が映し出される

 二人乗りの自転車で校庭をめぐる挫折した若者たち

 狂気と鬱屈を抱えて夜をさまようタクシー運転手

 殺人機械になるために訓練を受けたあげくトイレで自殺する兵士

 宇宙ステーションに繰り返し現れる過去の残像でしかない女性

 息子にも娘にも疎まれ長年連れ添った伴侶を亡くしても穏やかに受け入れる老翁

 映画で見た怪物を信じこみ夢見るように荒野をかける女の子

 耳を拾ったことを皮切りに闇の官能を覗いてしまう青年

 酒杯に火を灯して死者たちを悼むサングラスをかけたレジスタンス

 廃虚の建ち並ぶ夜の街を歩きまわり水で満たした瓶を集める少女

 みな孤独だった

 孤独な詩だった

 映画が与えてくれるもの

 風景の表層に見出だされた孤独

 視覚によって綴られた孤独

 古代人が思いもよらなかった

 テクノロジーに支えられた

 眼の詩篇

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