時計塔の崩壊

 街の中心の時計塔が

 ゆっくりと崩れていく

 住民たちの自慢の景勝地

 古い伝統の象徴たる時計塔が

 心臓を射貫いぬかれた竜のように

 おもむろに崩れていく

 小高い丘の城から見下ろしている鳥の群れは

 獲物が死ぬのを眺めるような好奇の眼

 時計塔の真下で見上げている人々は

 死がほとんど確定されたというのに

 時が止まったような無表情

 津波の直前の静けさにも似た

 冥府が横顔を覗かせるひととき

 日常が裂けながら憩うあわいの時間

 時計の針が臨終に指しているのは

 ちょうどぴったり十二時十二分

 真っ昼間の崩壊劇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る