明日をだれかに

 ぼくはなんてからっぽなのだろう

 そこそこの歳月生きてきたのに

 なにも身につかなかった

 だれにもなにも与えられなかった

 でももしやり直せたとしても

 きっと同じことだろうな

 同じようにぼくは十二で世界から切り離されて

 それからはからっぽで生きるのだろうな

 もはやその生き方しか想像できない

 終わる前は満たされていたはずなのに

 まるで他人の生涯みたいだ

 ぼくがもっとも幸福だった時代は

 もはや別人の記憶としか思えない

 彼女と出会って

 自分にも燠火のように生命が残っていると思えたが

 その残り火も自ら消してしまった

 こころが灰になったとき

 肉体はなぜ後を追わないのだろう

 朝起きて

 自分がまだ存在していることに

 いまさらながらに驚いてしまう

 明日が来てほしいと思えなくなって

 どれだけの歳月が経つだろう

 ぼくの明日は

 今日死んだだれかにプレゼントしよう

 だから明日よ

 もう来ないでくれ

 ぼくは今日だけで充分だ

 ぼくは眠りだけで充分だ

 ぼくの人生はもう充分だ

 からっぽなぼくは

 すでに充分透けているから

 お願いだから空白を上塗りしないでくれ

 無意味に無意味を重ねないでくれ

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