一人の作家が死んだ
また一人
好きな人が死んだ
会ったことはないし
言葉を交わしたこともない
年齢だって半世紀近く離れている
ただその人の書いたものを読んで
勝手にこちらが慕っていただけ
こころを支えてくれるよすがのひとつと
勝手にこちらがすがっていただけ
そうしてまた
こころを支える柱が折れてしまった
ぼくのこの内なる
いつ崩落してもおかしくない気がする
死んだあの人は
なにを
だれを
こころのよすがとしていたのだろう
書いたものから判断するなら
きっと世界に失望しながら死んだ
厚かましい話だけど
あなたの言葉に勇気づけられましたと
いつの日か会って伝えて
にっこり笑ってもらうことを夢見ていた
いまではもうそんな夢すら
見ることを許されなくなってしまった
でも今さらのことじゃないか
ぼくの好きな書き手のほとんどは
もうこの世にはいない
そしてこの人は満足しながら死んだだろうと
見なせるような書き手もいない
ぼくが出会ったのはその人たちの言葉だけ
ぼくに遺されたのはその人たちの言葉だけ
その人が死んだことと
ぼくの日常には関わりなんてない
それならば
あなたたちはまだ生きていると
勝手に見なしてもいいですか
言葉に宿る魂に
これからもすがりつづけていいですか
穏やかな笑顔を夢見つづけてもいいですか
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