祖父は言った

 祖父が死ぬ間際にこう言った

 オマエハダレナンダ

 祖父はもう誰を見ても思い出せなかったので

 それ自体は不思議ではなかった


 男児しか授からなかった祖父は

 息子の嫁さん(ぼくの母)から贈り物をもらった夜に

 落涙して言った

 オンナノコハヤサシイモノダ

 死んだ後に祖母が洩らすまで

 息子の嫁さん(ぼくの母)さえ知らない言葉だった


 幼い自分が

 祖父の身体の欠けた部分について

 疑問をぶつけたときにこう言った

 ネズミニカジラレタンダヨ

 欠けた由来も

 欠けた人生でなにを想ったのかも

 その言葉の他に祖父の口から聞くことはなかった


 祖父が死ぬ間際にこう言った

 オマエハダレナンダ

 じいちゃん

 なにかしら近しいものを感じとっていたじいちゃん

 死んだいまなら答えを知っていますか

 ぼくは誰で

 ぼくにはなにが欠けているんですか

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