魔法陣

 十代も後半にさしかかった頃のぼくの頭は

 とめどなく暗い妄想であふれていたが

 いまでも思い出すそのうちのひとつは

 自分のバラバラ死体を使って

 通学路のそばの田畑に

 小粋な魔法陣をこしらえるというものだった

 頭は目立ちたがり屋だから

 周縁部に置くという意外な配置

 腕は何等分に分けるか

 指は細かくまきちらすか

 膝の皿には愛着があるから

 中心部に置くという大胆な配置

 足は何等分に分けるか

 指は細かくまきちらすか

 左眼は右眼より視力で劣るから

 糸巻きにして置くという不憫な配置

 ひと頃はやったミステリーサークルみたいに

 誰かを驚かせられるかな

 通学路を往き来しながら

 計画を立てるのは楽しかった

 でもまあしかし

 魔法陣というのは次善の策で

 本当はチェス盤を作りたかった

 自分のバラバラ死体だけだと

 駒の数には届かない

 他人のバラバラ死体を混ぜると

 純度も下がるし楽しめない

 十代も後半にさしかかった頃の

 計画によれば周縁部に配置されるはずの

 ぼくの頭の中の

 あふれるような暗い妄想のテーマは

 いかに自分を遊ばせて殺すか

 その一点につきるのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る