神々のいない星で
川上 稔/電撃文庫・電撃の新文芸
僕と先輩の惑星クラフト
序章
●
凄く楽しいゲームをしている。そんな記憶がある。というか憶えてる。
宇宙空間って言うんですか? そこをやってくる相手がいる。当然、宇宙戦艦だ。艦隊だぞー、格好いいぞー、って感じで来るやつらに対して、こっちは自分の艦隊を指揮してディフェンスする。
攻めてくるオフェンス側は僕の古い友人達だ。
僕はまあ、広い空間に立って、部下に指揮する。多分、艦橋っていうやつだろう。アニメとかで良く見るデザインだ。
僕が指揮を飛ばすと皆が動く。誰も彼も、しかし人間じゃない。
AIが動かす自動人形達だ。てきぱき動いて迎撃オッケー。即座に実行、って寸法だ。
対し、オフェンス役の友人が、正面の空間に顔を写す。僕の使っているのは神道式の啓示盤で、鳥居型の表示範囲の中に友人が顔を見せた。
ゲーム中だ。何するかって決まってる。煽り一択。お互いに変顔+高圧的な言動で、お前、こっちの啓示盤がある程度操作フリーだからってわざわざ横に回って顔をのぞき込んだりしてくるなってーの。
まあいい。笑って手を上げ、勝負だ。
守り切ったら勝ち。そしてある程度まで進めたら途中でやめて、一息つく。向こう、攻めてくる側から、また友人達の声がして、またお互いに煽り合って笑い合う。
昔に比べると派手なことが出来るようになったもんだなあ、と思い、また友人達とプレイの続行を宣言して身構える。
そのとき、自分のそばに誰かがいる。
誰だっけ。憶えてる。けど今はゲームが大事だ。そう、ここで勝ったら、貴女に僕は大事なことを言うんだ。ええと。何だ。その、良いところを見せたら言える系のアレだ。金を貸して下さいとか、パンツ見せて下さいとか、そういうのじゃなくて。ああでも、巨乳を揉んでいいですかは、あっても良いはずだ。駄目か。だけど、
「うわ」
思い切り負けた。啓示盤からAIの声がする。
『アー、コレ、ゲームオーバーですね、ここ』
●
AIの声がした。
『えーと、じゃあ、次のゲームに行きましょう。準備します』
●
《言語設定:BABEL2035-FE-Std.99.999%》
《全角半角他表記混在:適時許可・知覚的補正選択》
《起動準備:バランサー管理下:許可》
《OS使用:2nd.S.S.No.03=S.S.No.3 1990 11thEdition》
《登録許可:許可》
《登録範囲:人類(特例)》
《登録ナンバー:Hum-XXX-001-000000000000000000011》
《記憶処理・管理:許可》
《諸元能力設定:設定完了》
《再生許可:再生完了》
《バランサー管理下:不許可》
《バランサー管理下:許可》
《神格管理下:不許可》
《神格管理下:許可》
《矛盾許容調整:自動》
《存在系譜:第四系譜まで確定》
《責任者群許可:一部除外》
《出場場所:現界》
《座標確認:35.714211 139.394698 誤差範囲0.00003mm》
《安全確認:許可》
《矛盾許容管理:自動》
《選択神格:半決定》
《固有スキル付与:”唯名改”》
《固有スキル付与警告:特例許可》
《担当バランサー範囲3/3/3/3-sp.》
《記憶継承:一回に限り78%可能》
『完了いたしました。――次のゲームを展開致します』
●
「おう……」
と目覚めてみると、夜だった。
空には星が散らばっていて、僕は座った姿勢でそれを見上げている。
見上げている。
見上げているということは、空を見ているということだ。ごく単純なことだが、何かそれが気になった。何故か、
「あれ?」
ぼやけている。
あー。つまり、アレだ。寝起きだ。
目覚めてみると、と前置きがあったとおり、よく解らない忘失感というべきだろうか。頭が働いてない。何かおかしいというか、違和があるんだ。
「そうだ」
夜空を見上げて目が覚めた、ということがおかしい。
目覚めたというか、起きたならば、寝てるのが普通だろう。何で座ってる。そしてまた、これだけ夜空が見えていると言うことは外だ。お外。夜にどうして外にいる。夜遊び、という単語が頭に浮かぶあたり、目が覚めてきたんだと思うが、
「……?」
何だ?
頭が働いてないと、そんな感覚があったが、それも道理だ。
憶えていない。
今より昔のことが”無い”。
僕の頭の中に、言葉はあるけど”昔が無い”。
●
うーわー。
●
立ち上がって見てみる。
マッパじゃない。服、白と黒。制服だ、と言葉が素直に思い出せて、何となく自分が存在しているいう繋がり感というか、掴んだような感覚が来た。
「あー」
声は出てる。
「服、白と黒、制服だ」
言葉が出る。変な汗も出る。焦ってる、という言葉は憶えてる。
「記憶が無い」
ゆっくり言って、言えることもだが、言葉が意外に考えずに出ることに安心する。
現状を、ただ思うがままに言ってみる。
「記憶が無い」
それは前提だ。だが、
「僕は男で、若くて、学生服――、夏服! 夏服だコレ。靴は――、コンバース! C.O.N.V.E.R.S.! 言える。知ってる」
体に触れる。
「髪、肌、目、鼻、口、腕、手、胸、腹、腰、チンコー」
もう一回言ってみる。
「チンコー」
大事だ。何かそんな気がした。これがあれば生きていける。そうかあ? どうだあ? まあそういう主義もあるとしよう。そして、
「ボタンを開ける」
胸のボタンを開けて内側を覗くと、胸の肌が見えた。巨乳じゃない。当たり前か。
「巨乳じゃない」
言って実感。これ大事。憶えておこうな。だけど、
……”ある”なあ。
体がある。いや、当たり前なんだけど、それが当たり前じゃない……、という状況はどんなもんか想定してなかったけど、まあ、当たり前のことを確認したんだ。それくらい、ちょっと焦ってる。でも、
「――えーと」
何だ。アレだ。記憶が無いって割に、言葉はポンポン出てくるし、自分は”ある”し、だとすれば何がマズいんだ現在。
自分はとりあえず何とかなってる。
外だ。
お外。僕が何か座って寝てた現場。夜空はある。だとすれば、
「――下」
地面。足下。眼下、って単語はよく出てきたもんだな。
さっきから見えていたけど、自覚してなかった。それは、
「オイ」
赤く鈍く光り、揺れるように動き流れる大地。
溶岩の海に僕は立っていた。
●
「え?」
おかしい、と思った。
知識がある。
溶岩は高熱。そんな上に僕は立っていられる訳がない。
《あ、ちょっと待って下さい》
……え? 何が何が?
思って振り向こうとしたとき、足が海の上を流れる岩に引っかかった。
転ぶ。それは溶岩の海に倒れる動きとなり、
「ああ」
死んだわコレー、と思う言葉と知識があることに、ちょっとビックリ。
だがその直後。それが来た。
竜だ。
「……は?」
●
あり得なかった。
モンスター、怪物、お化け……、はちょっと違うか。敵、ではあると思う。多分。
ただそれが見上げるほどに巨大な、溶岩というか、炎で出来た蛇だとすれば別だ。
角が有り、鬣のようなフォルムもある。
竜。ドラゴン。えーとまあ、他、何ていうんだっけ。
単に溶岩に落ちても死ぬんですが、完全に追い打ちだ。
鎌首からダイブするように突っ込まれた。アー駄目駄目。これは駄目です。僕は巨乳の女性のアタックしか受けたくない人間なんですが、
「アー」
ジュッ、とかいう音が聞こえた気がする。
つまり死んだ。死因は巨乳じゃない。竜にツッコまれたため。最悪だ。
●
《あー、またやった!》
《言語設定:BABEL2035-FE-Std.99.999%》
《全角半角他表記混在:適時許可・知覚的補正選択》
《起動準備:バランサー管理下:許可》
《OS使用:2nd.S.S.No.03=S.S.No.3 1990 11thEdition》
《登録許可:許可》
《登録範囲:人類(特例)》
《登録ナンバー:Hum-XXX-001-000000000000000000012》
《記憶処理・管理:許可》
《諸元能力設定:設定完了》
《再生許可:再生完了》
《バランサー管理下:不許可》
《バランサー管理下:許可》
《神格管理下:不許可》
《神格管理下:許可》
《矛盾許容調整:自動》
《存在系譜:第四系譜まで確定》
《責任者群許可:一部除外》
《出場場所:神界》
《座標確認:35.703514 139.412093 誤差範囲0.00003mm》
《安全確認:許可》
《矛盾許容管理:自動》
《選択神格:半決定》
《固有スキル付与:”唯名改”》
《固有スキル付与警告:特例許可》
《担当バランサー範囲3/3/3/3-sp.》
《記憶継承:一回に限り74%可能》
『コレ面倒なので、次から省略しますね』
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