第33話 嘲りの遊戯
ディアスに運ばれて、目を覚ますと私は牢獄のような場所に放り込まれていた。武器は没収されて無いようだ。
「アリン……やっぱりあんたもいたのね。」
同じ部屋にエリーゼさんもいた。どうやら同じように捕まったようだ。
「“やっぱり”ってのはどういう事ですか?」
「あんたとハンナが捕まった所を使い魔で見たのよ。ローシャ達に伝える事は出来なかったけど……多分私は別の奴にやられたわね。」
「そういえばハンナは?」
「ここには居ないわ。」
そう話している間に、看守の役割の兵士がやって来た。背が高く、少し長くて黒い髪を結った彼は私が何度も見た事のある人物だった。
「お兄ちゃ……」
彼はそう言おうとした私に凄まじい速さで刀を突き出して、喉のすぐ手前で止めた。
「えっ……」
「基本的に俺を味方だと思うな。助けてくれようとしてるのは大いに結構だが、いつでも俺を殺せる心構えをしろ。良いな。」
彼は自らの刀をしまうと、私達の武器を扉の前に置いて鍵を開けた。
「もう逃げられないからな。ここからはお前達でなんとかするんだ。」
あの頃のお兄ちゃんはそこには居なかった。過酷な日々の中で変わってしまったのだろうか。私の感情は堰を切ったように溢れた。
「何でなのよ……お兄ちゃぁん……ううっ……わあああん……!!」
「しっかりなさい。今はウジウジしていたって解決しない。やるしかないんだから。」
「……っぐずっ……えええん……」
なんとか声は抑えたが、泣き止もうとしても涙は流れるばかりだった。当然、お兄ちゃんが私に厳しくした事はある。でもあんなに拒絶されるような事は初めてだった。心を落ち着けようとしても、かつてのお兄ちゃんを思い出して感情に押し潰されそうになる。
(エリーゼさんの言う通りよ。今は前を向かないと。助けてくれたのは事実だし。)
私に語りかけて来たのはミリアだった。彼女のおかげで、少し冷静さを取り戻せたような気がした。
(そうよね……今は前を向かないと。なんであんな酷い事を言ったのかは、話せるようになった時にじっくり聞く……それでいいはずよ)
私は涙を拭って、深呼吸をする。
「にしても、私達は今何処にいるのかしらね。そもそも館の中なのか、或いは……」
「内部構造が分からないのは危険ですし、使い魔を使って調べてみてはどうでしょう。」
「この部屋、魔術が使えないようになってるみたいよ。そうじゃなきゃ、私はとっくに使い魔で脱獄してるわ。」
そう言ってエリーゼさんは外に出て、白銀の剣を拾い上げる。
「だから、シラミ潰しに道を探すしかないわ。行くわよ。」
なるべく音を立てぬように、でも素早く檻のある部屋から抜け出して外の通路を移動する。薄暗く、灰色の景色が続いていた。不思議な事に
しばらく歩いていると、何やら奥から声のする扉が姿を表した。その苦しそうな声に私は背筋が凍る。
「ハンナだっ!」
エリーゼさんは私の腕を突き、声を出した事を諌めた。
「で、助けるの?」
「見捨てる事は出来ません。お願いします。」
「分かったわ……でも、今からでも最悪の場合も覚悟しておきなさい。」
私は扉を開けて、すぐに戦闘できるように構える。
「五月蝿いなぁ。誰だよ?折角体を休めてる途中だったのに。」
声の主はディアスだった。
「ハンナに何をしたの!?」
「ほう?声を聞いてみればアリンか。脱獄した癖にわざわざ俺の前に姿を表すとは……とんだ馬鹿だな。」
彼はハンナから離れると、腰に装備した蛇腹剣を構えた。ディアスに隠れて見えなかったハンナは大の字に寝かされていて、上にかけられた布以外何も身につけて居なかった。何が行われていたか察した私の怒りは限界に達した。迷わずに魔剣二本を抜刀し、距離を詰めて斬りかかる。
「あんた……よくもハンナを……ッ!!!」
「はっはは……乱暴だなぁ。そういう所、嫌いじゃないが。」
私の剣をするりとかわし、ディアスは横に移動する。エリーゼさんが加勢しようとしたが、その前にディアスは攻撃の構えを取る。
「お前への攻撃がハンナに当たると困るからな……セットアップ!」
ディアスは部屋のあちこちから鎖を出現させて私とエリーゼさんを拘束した。
「まぁ、いざって事もあるからな……まずはお前からだッ!!」
私は剣を付き出すディアスから思わず目を背けた。その時、エリーゼさんは足元に落とした剣を分裂させて私達を拘束する鎖を切った。
「詰めが甘かったわね、ディアス。あんたがわざわざ小細工で教えてくれて助かったわ。この部屋だけ魔術を使えるようにしてあったって事をね。」
焦るディアスを、私は魔剣で襲いかかった。左手に持つ細剣ティルフィングで胴を貫き、そのまま壁に剣を突き刺す。
「死ねええぇッ!!」
「クソッ……でも仕方ねぇか……」
私がディアスの首を右の剣・ダーインスレイヴで刎ねようとした所で、彼は素早くネックレスを掴む。するとディアスは光とともにどこかに消えてしまった。魔剣が空を切る音だけが不気味に、虚しく響いた。
「ちっ……逃した……」
私は、魔剣をしまって暴走状態からもとに戻った。どっと疲れが押し寄せて、肩で息をしながらハンナの元に向かう。
「ハンナ、大丈夫……?」
「……助けて……」
私がハンナの拘束を解いてやると、彼女は私にキスをして押し倒した。
「……媚薬を使われて……抑えきれないの……助けて……!」
「ダメよハンナ!さっきの戦いでアリンはかなり消耗してる。私が相手するから……」
私はハンナに着衣を乱されながらエリーゼさんに話した。
「大丈夫です。私がなるべく早く……あっ……ハンナを満足させますから。」
「分かったわ。そう言うなら仕方ない。」
エリーゼさんが外に出ていくと、ハンナは一層激しく己を開放させた。私達はハンナの媚薬の効果が消えるまで混じりあった。
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