第16話 銀と血の稲妻
人工島の桟橋は、新たな侵入者を防ぐため沈んでいた。私達はエリーゼ達数人と小舟に乗り込み、浮島に向かった。
「危ないっ!!」
カインが叫ぶと、目の前に火の球が現れた。
「凍て付けっ!!」
私は剣に氷を纏わせ、それを打ち消す。舟の頭が焦げているのを見て少しヒヤリとした。
「クソっ…魔術師か…
亡霊よ、騒ぎ踊れ!ホーンデット!!」
カインが数人の魔術師の動きを止めたが、これで全員ではないようだ。人工島の魔術師は、こちらに集中放火を浴びせる。
「ガイアハンド!!」
カインは二つの巨大な岩の手で魔法を防ぐが、これでも完全ではない。
「クソっ……これじゃ、あっちに行く前に沈められるぞ。」
「縁起でも無いこと言わないで!!」
その時、岸に光の球が現れて消えた。途端に攻撃は弱まった。
「遅くなってごめん、みんな。」
横の小舟にはハンナが乗っていた。
「ハンナ!来てくれたんだ!」
「まぁね。あ、そうだ。カイン、伝えてくれてありがとう。」
「こちらこそ。お陰で助かった。」
まだ魔術師がいるようでハンナの小舟にも、火の球が飛んできた。
「危ないっ!!」
私は彼女の小舟に飛び乗りながら、火の球を打ち消す。
「はぁ…ありがとう、アリンちゃん…」
それを見ていたエリーゼが指示を出す。
「アリン、そっち頼んだよ。このまま相手の攻撃を打ち消しながら進むわ!」
あと500m程で岸につく。彼らは攻撃の手を緩めようとはしないが、ハンナのおかげでかなら数は減っている。
おかげですぐに岸が近付いてきた。
「もうそろそろね…蹂躙せよ、傀儡の刃よ!」
エリーゼは岸にいる魔術師に対して、剣を飛ばして応戦した。カインも、強い結界を張って上陸に備えた。
「二手に分かれて、裏にある入り口に向かいながら岸にいる奴らを倒すわよ!」
エリーゼとカインは、こちらから見て左周りに走っていった。
「私達も行こう。借はキッチリ返すよ!」
私はそう言うと、右周りに走りながら目の前に現れた剣士や魔術師を細剣の雷で気絶させていく。ハンナも、銃剣を槍のように使って敵を退ける。
そうしているうちに、宝物庫の入り口に到着した。エリーゼ達は、その前で様子を伺っている。
「近くには誰も居ないみたいですね。進みましょう。」
足下には、鎧を着たまま事切れた血塗れの死体がいくつか転がっている。恐怖からか、不安からなのか、ハンナが肩にしがみついてきた。
「私だって慣れてる訳じゃない。大丈夫。」
何度も凄惨な光景を見てきたが、何度見ても気分の良いものではない。
階段の前に、数体の寸断された死体と傷ついた女剣士がいた。カインは急いで駆け寄った。
「フィグネリアさん!?今治療します!」
「あぁ…エリーゼの所の…すまないな…」
フィグネリア・マシェフスカヤは港湾兵団の団長で、エリーゼと同じ階級の人物だ。
「大分良くなった。ありがとう。」
「無理はしないでよ。」
「あぁ、退かせてもらうよ。でも帰る前に言いたい事があるんだ。」
フィグネリアは静かに語り始めた。
「あいつらは
それから、東国の鬼面を被った戦士がいたんだが…あいつは化け物だ。アタシは数人がかりでそいつと戦ったが、見ての通り…アタシを除いてみんな殺された。それも一瞬でな。アタシも、2発と受けられなかった。それを聞いても行く覚悟があるなら、行ってくれ。」
エリーゼは私達の方を見た。皆、反論はしなかった。
「私はあんたの仇を取らないといけない。私達に任せて。」
「悪いな…」
フィグネリアは鞘にしまった大剣を杖代わりにして出口に向かった。
私達は階段を降りて、大魔石があるという地下に向かった。
「うわっ…」
そこに広がっていた光景は想像を絶するものだった。数十という兵士が血色を失って倒れていた。そして一人の槍を持った浅黒い肌の少女…魔王であるメイジー・アッバースが、般若面を付けた人物を始めたとした数人と血塗れになりながら戦っていた。その中には、あのディアスもいる。
「魔王様!加勢に来ました!」
「申し訳…ありません。大魔石を…取られてしまいました…はぁ…早く…ッ…なんとかしないと……」
そうは言ったが、魔王メイジーは普通なら立っていられないような深い傷を全身に負い、足はおぼつかない。まるで死体が歩いているかのような痛々しい姿だった。
「御無理をなさらないで下さい。これ以上戦われては危険です。」
エリーゼはそう言った後、剣を変形させて
「ここまで追って来るとは…感心感心…」
ディアスの邪悪な笑みが、厭に私の殺意を昂らせる。
「畏れよ…三歩必滅ッ!!」
飛び上がった後に部屋の天井を蹴り、ディアスのすぐ目の前で右足に力を収束させた一発を放つ。
「なっ……!!」
衝撃波を受けたディアスは吹き飛ばされそうになっていた。それを見て私は、全身に走る痛みに耐えながら体を回転させて斬りかかる…
「……ッ!!」
一瞬後ろを振り向いた時に、般若面が炎を纏った大槌を振りかざしているのを見て私は飛び退いた。
「チッ……」
大槌を腕輪に変えると、般若面は腰に提げた3m近くはある大太刀を抜いた。そして、
「…うあっ!!!」
まるで銀色の稲妻のように、次の瞬間には私の脇腹を貫いた。最早かわす隙もなかった。口に血の味が広がって、痛みに顔が歪む。
刺さった剣を荒く引き抜かれると、そこからは血が吹き出した。もう一度立ち上がろうとしても、引き裂くような強烈な痛みが邪魔をする。
「アリンちゃん!!」
薄れゆく意識の中で、ハンナの悲鳴が頭の中にこだました。
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