第150話 友華の策略②

 沙月は3800円した虎のぬいぐるみを嬉しそうに抱いている。

 水樹が危なげ無く取っていたので、ここのは取りやすくなっていると思っていたら大間違いだった。

 結局、沙月に指定されたぬいぐるみが取れるまで3800円も使ってしまった。

 中居も及川にねだられていたので、さぞ苦労しただろうと思い聞いてみると、驚くべき事に500円で取れたらしい。

 くつ! 俺が下手なんじゃなくてコイツ等が上手すぎなんだ。

 だけど沙月が喜んでくれているから俺からしたら何の問題も無かった。


 その後も友華さんによってカップル限定割引が適用されるゲームをやった。

 レースゲームやガンアクションゲームは特に及川や沙月から文句無く遊んだ。

 そして友華さんは最後にプリクラを撮ろうと提案した。

 さすがにプリクラは文句が出るかな? と思ったが、二人とも何の抵抗も無く撮った。

 もしかしたらパンケーキ屋からずっとカップル割引を使っていたので喧嘩中というのを忘れてしまったのかもしれない。

 

 ここまで計算して行動していたとしたら、友華さんは絶対に敵にしたくないな。



「あー楽しかった」

「そうですね。ゲーセンなんて久しぶりでした」

「そうなんだ? 私なんてしょっちゅう和樹に連れてかれてるよ」

「だからあんなに上手かったんですね!」


 及川と沙月がスッキリした顔で話している。

 そこまでストレスを与えてしまっていた事に改めて反省していると


「良い雰囲気だな。このまま仲直り出来るといいな」


 いつの間にか隣に来ていた水樹がそう言った後


「でも、友也がキチンと謝らないとまた同じことの繰り返しだからな」


 とだけ言って、今度は中居の隣に歩いて行った。

 水樹の言う通りだな。水樹と友華さんのおかげで今は普段通りに接してくれるけど、俺が謝らないと本当の仲直りとは言えないよな。



「次はどこ行きます?」

「私は乗り物乗りたいな~」

「ん~、そうね~」


 俺が再度自分の覚悟を確認している間に、女性陣は次は何処へ行こうか相談していた。

 及川も友華さんに慣れてきたのか、普段楓達と接する時とあまり変わらなくなった。

 それでも一応は敬語を使ってる辺りはキチンと先輩後輩を意識してるのかもしれない。


「あっ!」

「どうしたんですか?」

「私コレに憧れてるんです」

「えっ……」

「お姉ちゃん、それは流石に……」

「ダメですか?」

「え~っと……分かりました、乗りましょう!」

「佳奈子先輩!?」


 どうやら次の場所が決まったらしく、及川が「こっちこっち」と手招きをする。

 友華さんを先頭にして着いて行くと、着いた場所はスワンボート乗り場だった。

 まさかこの歳でスワンボートに乗ることになるなんて……。

 おまけに例の如くカップル割引が適用されるらしい。


「おいおい、マジかよ」

「ユウ姉はこういうの好きだからなぁ」


 俺同様に中居が顔を引きつらせてる横で水樹がヤレヤレといった感じで肩を竦めている。

 俺達が固まっていると、及川と沙月がこっちにやって来て


「ほら、乗るよ!」

「いや、マジで乗るのか?」

「友華先輩が乗りたいって言ってるんだから諦めなさい!」

「はぁ~、わーったよ」


 中居が及川に腕を掴まれ引きずられて行った。

 それを見ていた俺も沙月に腕を掴まれ


「友也さんも当然のりますよね?」

「え? あ、ああ。沙月は恥ずかしかったりしないのか?」

「恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」

「だったらどうして」

「それは……まだ教えてあげませ~ん。ほら、行きましょう」

「お、おい、そんなに引っ張るなって」


 水樹は特に抵抗する事無く友華さんと楽しそうにスワンボートの係員の所に行った。

 こうして俺達はそれぞれスワンボートに乗り込んだ。


 小さい頃に親父と一緒に乗ったっきりだけど、これって漕ぐ方は大変だな。

 俺が必死に漕いでいる横で沙月が「あっ! 今コイがいた!」とか言ってゴキゲンだ。

 景色を楽しむのもいいけど少しくらい漕ぐのを手伝って欲しい。


「友也さん汗凄いですよ」

「そう思うなら少しは手伝ってくれ」

「任せてください! 友也さんは休んでていいですよ」

「ありがとう、助かる」


 漕ぐのを沙月に代わり、汗を拭って景色を眺める。

 こうして眺めると結構なカップルが利用していた。

 お! あれは中居達だな。何か言い争ってる様に見えるけど大丈夫だろうか?

 あっちには水樹達のボートもある。あの二人なら何も問題はないだろう。

 いや、友華さんがわざわざスワンボートを指定したんだから何かあるはず。油断しない様にしよう。


「んっく! よいしょ!」

「……」

「ふん~! う~!」

「……沙月」

「な、ハァハァ、なんですか?」

「やっぱり俺が漕ぐよ」

「大丈夫ですよ! まだまだ頑張れます!」

「でも全然進んでないぞ?」

「うっ! それは……」

「もう十分休ませて貰ったし、沙月も休んでろよ」

「はい、ありがとうございます」


 また漕ぐのを交代して、漕ぎだそうとした瞬間、バシャアンッ! と聞こえた後に、友華さんの悲鳴が聞こえた。


「だれか、誰か助けてください!」


 どうやら水樹が池に落ちたらしく、友華さんが必死に助けを呼んでいる。


「沙月、ちゃんと捕まってろ」


 そう言って俺は友華さんのボートに向かって全力で漕ぎだした。



「ビックリさせんなよ」

「本当だよ」

「悪い悪い。皆も迷惑掛けてごめん」


 あの後、水樹が自力でボートに戻って事なきを得た。

 池に落ちた理由がでっかいコイが居て、それを捕まえようとして落ちてしまったらしい。

 俺と中居に心配させるなと怒られ、その後、女性陣に頭を下げた。


「っつーか全身びしょ濡れで寒い」

「どっかで着替え売ってねーか?」

「流石にないんじゃないか?」


 と話していると友華さんが怖い顔で


「何いってるんですか! こんな格好でいつまでもいたら風邪を引いてしまいます。タカくんは私と一緒に帰りましょう」

「大丈夫だって。折角遊びに来たんだからさ」


 友華さんの必死な訴えに水樹が軽い感じで答えると、友華さんの表情が更に険しくなり


「タカくん、私の言う事がきけないんですか?」


 今まで見た事のない怒った表情に、凍てつくかと思う程の冷たい言葉に水樹だけでなく俺まで震えた。

 友華さんって普段はおっとりしてるけど怒らせるとこんなに怖かったのか。

 水樹も流石に友華さんが本気で怒ってる事を察して


「分かった、帰るよ。という訳だから後は四人で楽しんでくれ」


 そう言い残し、水樹と友華さんは帰っていった。

 四人で楽しんでくれって言われても、仲裁役の二人が帰ってしまってどうすればいいんだ?

 そこでふと、ある事が思い浮かんだ。


 もしかして水樹はこうなる様にワザと池に落ちたんじゃないか? と。

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