第149話 友華の策略①

 昼食を済ませた後、女性陣が化粧直しに行ったタイミングで水樹が口を開いた。


「なんだかんだ言ってお前達が仲良さそうで何よりだよ」


 ぬけぬけとこんな事を言ってきた。


「何言ってるんだよ、俺達をハメておいて」

「全くだ。それに俺は仲直りした気はねぇしな」


 俺と中居がそれぞれ文句を言うと、水樹はクククッと笑い


「まぁ、騙したのは悪いと思ってるけど、仲直りするには効果的なんじゃないか? 中居は意地張ってるだけだろうし」


 確かに此処に来て普通に会話は出来る様になったけど、水樹の掌の上で転がされている感じがして素直に喜べない。

 それに、会話が出来る様になっただけで仲直りはしてないしな。

 仲直りするにはやっぱり俺から謝りたいって気持ちもあるから、こればっかりは水樹に頼る訳にはいかないと思っている。


 

 女性陣が戻って来て「さて、次は何処へ行こうか」と水樹が仕切ると、友華さんから提案があった。


「食後のデザートにパンケーキ屋に行きませんか? なんでも期間限定で割り引きしてるらしいんですよ」


 友華さんの提案に及川と沙月のテンションが上がる。

 一方、俺と中居は……特に中居は明らかにテンションが下がっていた。

 中居の気持ちも分からなくはない。デザートならさっきのレストランで食べているし、腹も満腹に近い。

 しかし、ここで反対すると及川に何を言われるか分からない為、賛成するしかなかった。


 友華さんの言っていたパンケーキ屋はレストランから然程離れていなかったが、表に出ている看板を目にした瞬間、俺達は自然と足が止まった。


 その看板には「カップル限定割引」と書かれていた。


「あらあら、どうしましょう。まさかカップル限定だったなんて」


 もしかしてこれも俺達を仲直りさせる作戦なのか? と考えるが、友華さんの事だから素で知らなかった可能性も否定出来ない。


「カップル限定みたいですから今回は諦めましょ?」

「そうそう、お姉ちゃんにはまだ早いんだよ」


 及川と沙月がなんとか諦めさせようとしているが、沙月の言葉は友華さんの心を抉っているだけだと思う。

 二人の説得? に友華さんは


「確かに彼氏の居ない私では割引は受けられないですね」

「で、ですよね! だから違う所に……」

「タカくん、彼氏のフリして貰っていい?」

「ったく、ユウ姉は相変わらず甘い物に目が無いんだな。分かったよ、この中じゃ俺が適任だしな」

「へ?」


 友華さんが諦めると思って違う場所に誘導しようとした及川だったが、その思惑どおりには行かなかった。

 今のやり取りで確信した。友華さんはここがカップル限定割引だと知ってて連れて来たのだ。その証拠に水樹に躊躇いなく彼氏役を頼んでいる。俺の知っている友華さんならフリとはいえ彼氏役を頼むなんて事はしないからだ。


「んじゃそれぞれカップルに分かれて入ろうぜ」


 なんてことない様に水樹は言うが、今の俺達にとってはそれが一番気まずい。

 いくら少し普段通りに会話が出来るようになったとはいえ、俺達は未だ絶賛喧嘩中なのだ。

 流石にここは無理かな? と思っていると及川が動いた。


「はぁ~、しょうがないか。ほら、和樹、行くよ!」

「なんでそんなに偉そうなんだよ」

「うるさい! 文句言わないで着いて来ればいいの!」

「へいへい」


 中居は及川に無理やり連れて行かれてしまった。

 言動は普段より荒々しかったけど嫌がってはいない様に見えた。

 まぁ、中居達は中居達だからな。問題は俺だ。


「さ、沙月もパンケーキ食べたいか?」

「逆に聞きますけど、ここまで来て食べたくないと思いますか?」

「……思いません」

「それじゃあ私達も行きましょう! ほら、友也さん、ボーッとしてないで早くして下さい」

「あ、ああ、悪い」


 そう言えば前に柚希と友華さんと一緒に出掛けた時も美味しそうにパンケーキ食べてたっけな。

 俺も中居達同様に沙月に引っ張られる様に店内に入っていった。


 店内に入ると内装がクリスマス使用になっており、何だかコーラが飲みたくなった。

 カップル限定割引というので席もバラバラになると思っていたが皆同じテーブルに着くことが出来た。

 割引も特にカップルの証明(キスだったりハグ)等は無く、すんなりと割引が適用された。

 まぁ、この時期に男女で来てたら大体はカップルだろうから、いちいち店も確認はしないか。


 しばらくして注文した品が運ばれてきたが、それを見て驚いた。

 フワフワのパンケーキの上にこれでもか! って位の生クリームが乗っていた。

 女性陣は黄色い歓声を挙げてそれぞれ口に運んでは可愛らしく「おいひ~」と言っている。

 さっき昼食を済ませた後でよく食べられるなとは思うが、それは決して口にしない。

 もし口にしよう物なら女性陣から避難轟々なのが目に見えているからだ。

 男性陣は飲み物だけを注文し、女性陣が満足するのをただ静かに見守っていた。



 パンケーキ屋を出て、宛ても無く歩きながら女性陣は先ほどのパンケーキの感想を言い合っている。


「いや~、美味しかったね~」

「そうですね! 特に私は生クリームが美味しかったです~」

「わかる~、美味しかったよね~」

「うふふ、美味しかったですね。また食べに来たい位です」



 パンケーキ屋の中でも「美味しい」の嵐だったので、俺の頭の中で美味しいがゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

 それは中居も同じだったのか、ウンザリした様な顔をしている。

 水樹はというと、そんな素振りは一切見せずにニッコリと笑っている。さすが水樹といったところだろうか。


 暫く歩くとゲームセンターが見えてきた。

 遊園地の中にゲーセンがあるのはどうなんだ? と思うのは俺だけだろうか。

 すると再び友華さんが立ち止まり


「ゲームセンターに行ってみたいです」


 とゲーセンを指差して提案する。

 特に反対する理由も無いので、ゲーセンで腹ごなしする事になった。


 流石にもう驚かないが、ゲーセンの中もクリスマス一色だった。

 そして、シューティングゲームやレースゲーム、プリクラ等はやはりと言うべきか、カップル割引があるようだった。


 友華さんはゲーセンに入って直ぐに設置されている円盤キャッチャーに興味を引かれたらしく、ガラスに張り付かん勢いで景品を見ている。

 そんな友華さんに水樹が近寄り、お金を入れてボタンを操作すると、アッサリとウサギのぬいぐるみが取れた。

 そのぬいぐるみを友華さんに渡すと、友華さんは凄い喜んでいた。


 その様子を見ていた俺だったが、二人が本当の恋人に見えてしまった。

 っていうか円盤キャッチャーってあんなに簡単に取れたっけ?

 と疑問に思っていると、袖口をクイクイと引っ張られる感じがしたのでそちらを見ると満面の笑みの沙月が居た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る