第141話 残酷

 突然の柚希登場に固まっている俺を尻目に、水樹にも挨拶をする。


「水樹先輩もこんにちはです」

「ああ、こんにちは。友也に何か用事かな?」

「はい、先輩とお昼ご一緒出来たらと思って来ちゃいました」

「そっか。俺等もこれからメシだから一緒に食べていけばいいよ。な? 友也」


 水樹に呼びかけられて我に返る。


「柚希、どうしてここに?」

「もぅ、話聞いてなかったんですか? お昼ご一緒するんですよ~」

「は? いやいや、え?」

「水樹先輩からはオーケー貰いましたよ?」


 そう言われ、水樹に視線を向けると


「別にメシ位一緒でもいいだろ。友也の妹だし皆文句は言わないと思うぞ?」

「文句は無いんだろうけど……」


 渋っている俺に水樹は肩を組んできて、柚希に聞こえない様に小声で


「信じてみるって決めたんだろ。それに柚希ちゃんから歩み寄ってるんだからそれを拒否してどうする」

「それはそうなんだけど……」

「大丈夫だって。フォローはするから」


 と言って組んでいた肩を解いて


「んじゃメシにしようぜ。柚希ちゃんも遠慮せず教室入っていいから」

「はい! ありがとうございます」

「友也も早く来いよ~」


 と、柚希を連れ立って教室に入っていった。

 その後ろを、覚悟を決めて付いていく。



 いつもの溜まり場に着くと水樹が


「今日はお客さん連れてきたぞー」


 と言って、いつもの定位置に着く。

 するとすかさず柚希は自己紹介する。


「佐藤友也の妹の佐藤柚希です。よろしくお願いします」

「おう」

「柚希ちゃんだー! 文化祭ぶりだねー」

「よろしくねー」

「妹も美少女とか佐藤君マジパないわー」


 と楓以外のメンバーが挨拶する。

 楓はどうして柚希が此処に? といった感じで固まってしまっている。

 まぁ無理もない。柚希から『新島先輩にはガッカリしました』と言われているからな。

 どう接したらいいのか分からないのだろう。

 いつまでも挨拶しない楓に気づいた南が「挨拶しないのー?」と聞いていたが



「私は同じ部活で毎日会ってたから。でも部活以外で会うのは久しぶりだね」



 と皆が納得する答えを瞬時に判断して答えるのは流石というべきだろう。

 それに対し柚希は



「お久しぶりです~。新島先輩には部活で色々面倒見て貰ってるんですよ~」



 とこちらも当たり障りない返答をする。

 それに対して皆は「そういえば部活一緒だったねー」と言って席に座る様に促す。

 そして女子達で柚希に色々質問したりと談笑を始めた。

 それを未だ突っ立って見ていた俺に中居が


「何突っ立ってんだ? 早くすわれよ」


 と言われ、いつもの席に座る。

 俺がずっと柚希の事を見ていたのを勘違いした田口が


「そんなに妹が心配なん? 佐藤君ってシスコンだったんか~。まぁあれだけ可愛ければ無理ないっしょ~」


 と言って来たので、これはチャンスと思い乗っかった。


「そうなんだよ。可愛いから、変な男に言い寄られないか心配でさ~」

「分かるわ~。恭子ちゃん可愛いから心配だわ~」

「いや、田口の場合は自分の心配しとけよ」


 とやり取りをしていると中居が


「マジでシスコンなのかよ」


 ここでカウンターを浴びせる。


「中居だって及川が男に言い寄られてたら嫌だろ? それと同じ感覚なんだって」

「確かにムカつくが、佐藤の場合は妹だろ」


「でも大切な人って事じゃ変わらないんじゃないか?」


俺は少し眉間に力を込めて返答した。


「ま、まぁ佐藤が妹を大事にしてるって事は伝わった」

「分かってくれればいいんだ。もし妹が男と一緒に居たら教えてくれ」

「お、おう」


 よし。中居は今後柚希が男と居たら必ず俺に知らせてくれるだろう。

 若干引かれてしまったが。


 彼氏を作らないと言っていたが、まだ全面的に信用した訳じゃないからな。


 しかしこんな短い時間でグループに溶け込む柚希の社交性は流石と言わざるを得ないな。


 

 昼休みが終わり、柚希は自分の教室に戻っていった。

 これで一安心と思っていたら休み時間毎に教室に現れて俺にまとわりついてきた。

 そして授業が終わり、帰り支度をしていると、やはり柚希が顔を出し、一緒に帰る事になった。


 もう柚希が何を考えているのか分からない。



 いつもの交差点で南と別れ、柚希と二人きりになった。

 だが、柚希の様子が変わる事は無くいまだに猫かぶり状態だ。


「テスト嫌ですね~。先輩はテストも余裕なんですか~?」

「あのな、柚希。今日は一体どうしたんだ?」

「何がですか~?」

「俺の事を先輩と呼んだり、俺に付き纏ったりだよ。挙句の果てにグループにまで入ろうとして」

「それはですね~、先輩はこんな可愛い後輩に慕われてるアピールなんですよ~」

「いやいや、後輩っていっても兄妹だろ」

「でも学校で私と先輩が兄妹って知ってるのはグループの皆さんとめぐだけですよ?」

「え? 友達とかに俺と柚希が兄妹って言ってないのか?」

「はい! 当初は先輩の妹として株が上がるかな~って思ってたんですけど~、先輩に可愛がられてる後輩の方が目立つと思ったんですよ~」


 可愛い仕草でとんでもない事を言われた。

 確かに学校一のリア充になり。

 美少女と付き合い。

 その妹として注目を集めようとしていた。


 それが、当初の目的だ。

 だけど柚希は早々に妹ポジションでは無く、後輩ポジションにシフトしていたらしい。


「でも、いつかは俺達が兄妹だってバレるだろ」


 と当たり前の疑問を口にすると


「それはそれで、学校一のリア充が可愛がってた後輩が実は妹だった! って注目浴びるじゃん!」

 

 「それに」と一区切り付けて


「沙月ちゃんも有名なお嬢様学校に通ってるしね」


 おいおい、まさか沙月まで利用する気なのか?

 そして玄関の扉を開くと無邪気に笑い




「結果的に新島先輩よりよかったかも」




 そう言って家の中へ入っていった。

 最後のセリフに身震いがした。



 必要のなくなった相手には残酷な迄の無関心さに。

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