第37話 危惧

 家に帰るなり柚希が


「新島先輩と付き合ったんだって?」


 と、開口一番に言ってきた。

 学校中の噂になってたみたいだし知ってて当然か。


「ああ、詳しい話はあとでするよ」


 と言い、俺は自室に荷物を置き、そのまま風呂に入った。

 風呂から上がると、スマホの通知ランプが光っていた。

 確認すると楓からメッセージが来ていた。


「柚希ちゃんに話すの?」


 という内容だった。


「ああ、楓の事はどこまで話していい?」

「全部はなしていいよ」

「いいのか?」

「うん、大丈夫。柚希ちゃんによろしくね」


 と短いやり取りを終え、夕飯を済ませる。

 リビングに居る間、柚希は話を聞きたくてうずうずしてるのがまるわかりだった。


 ベッドに横になり、今日の事を整理しようと考え始めた時、ドアがノックされた。


コンコンッ


 きっと柚希だろうなと思いながらドアを開く。

 ドアを開けた瞬間、柚希が部屋に入り込み椅子に座って聞く気満々の姿勢を取る


「今日何があったのか教えて! 新島先輩部活も休んでたし」

「そのことも含めて話すよ」


 俺はファミレスで楓が皆に話した事をそのまま伝えた。

 それに加えて、楓が独占欲が強いという事も一応伝えておいた。


「なにそれヤバイ! 新島先輩マジ乙女じゃん!」


 と、なにやら興奮している。

 まぁ乙女なのは俺も同意だな。


「でもまさかぼっちの時のお兄ちゃんに惚れてたとはねぇ」

「俺もビックリしたよ」

「そのお蔭で私は新島先輩に目を付けられなくてよかったよ。これで本気が出せる」


 やはり柚希は高校でも完璧美少女を目指すみたいだな。

 新島はぼっちの俺を見て考えを改めたみたいだけど、柚希はどうすればいいのだろうか。


「でも、水樹先輩の言う通り嫉妬からの嫌がらせには気を付けた方がいいかも」

「柚希もそう思うのか」

「女子程じゃないにしても、学校一の美少女と元ヲタクぼっちが付き合ったらそりゃ嫉妬されるよ」

「女子はもっとヒドイのか」

「女は怖いよ。昨日まで親友とか言ってたのに次の日にはいじめる側になってるとかザラだからね」


 女の世界は怖いな。

 柚希もそんな経験があるのだろうか?


「柚希は大丈夫なのか? それだけ目立つと嫉妬する奴とか出てくるんじゃないか?」

「そこは普段の立ち回りでなんとでもなるよ。誰にでも優しくしたり、それを鼻にかけないとか」


 さすがと言うべきか、そこまで考えてるのか。

 そう言えば楓も悪い噂は無かったな。


「まぁ私の事は置いておいて、お兄ちゃんも色々行動した方がいいよ」

「分け隔てなく優しくしたりとかか?」

「それもあるけど、女子とは仲良くしといた方がいいよ。女子が味方なら男子は女子に嫌われたくないからお兄ちゃんにちょっかい掛けづらくなると思うから」

「そうか、頑張ってみる」


 聞きたい事を聞いて満足したのか柚希は自分の部屋に戻っていった。

 ベッドに横になり、ファミレスや柚希の話を思い返し、これからどうすべきか考える。

 目立つ行動はしない方がいいよな? 火に油注ぎそうだし。

 だからと言って何もしなければ嫌がらせをされる可能性がある。

 

 どうしたもんかと考えているとスマホの通知音が鳴った。

 恐らく楓からだろう。

 画面を確認するとやはり楓からだった。


「起きてる?」

「おきてるよ、どうした?」

「柚希ちゃんには話したの?」

「ああ、全部話した」

「そっか、何か言ってた?」

「これで全力が出せるとか言ってたな」

「そっか。話変わるけど、明日一緒に学校行かない?」

「いいよ、駅で待ち合わせでいい?」

「うん、改札の所で待ってる」

「わかった」

「遅刻しないでね?」

「大丈夫だよ」


 と明日の約束をした後、しばらく取り止めのないやり取りをした。

 やり取りが終わった後、俺はベッドの上で転げ回り改めて実感していた。

 ヤバイ! なんか凄い幸せ! これが彼女が出来るって事なのか!

 それに今の俺ってすごいリア充っぽい! 友達も出来たし彼女も出来たからもう自分でリア充名乗ってもいいんじゃないか?

 今の俺は去年までただ眺めていただけのリア充に成った!

 うん、自信を持つ事は大切だよな。

 俺はリア充だ!


 その日は自分がリア充に成った実感を噛み締めながら眠りに就いた。


 次の日の朝、いつもより早く家を出て電車に乗る。

 学校の最寄り駅に着き、改札を出ると


「友也君おはよ~」


 と、楓が出迎えてくれた。


「おはよう、相変わらず楓は早いな」

「ふふ、一緒に登校するの楽しみだったから」


 可愛いな! これが青春って奴か。


「俺も楽しみにしてた」


 と返すと


「嬉しい♪」


 と言って俺の手を握る。

 そしてそのまま学校に向かい歩き出す。

 学校に着くまでの間も雑談に花を咲かせ、眩しい程の笑顔を何度も見せてくれた。

 

 さすがに校内まで手を繋いだままにはいかないので校門前で手を放す。

 楓が名残惜しそうな顔をしたがしょうがない。

 二人で教室を目指して歩いていると、廊下で雑巾と箒で野球をやってる奴らがいた。

 朝から元気な奴等だな、と思っていたら後頭部に何かが当たった。

 振り返ると、どうやら箒で打った雑巾が俺の頭に当たってしまったらしい。


「ご、ごめん。大丈夫?」

「ああ、幸い雑巾だったから痛くは無かったよ」

「ホントにごめん」

「いいっていいって」


 雑巾を打ったであろう人物が近くまで来て何度も謝る。

 もう一人も「マジごめんな~」と言って手を合わせている。

 俺は大丈夫だから気にすんなと言い、再び歩き出すが


「今のってわざとじゃないよね?」


 と楓が心配そうに言ってきたので


「ただの偶然だろ。そんなに何でもかんでも疑ってたら疲れちゃうよ」

「そうだよね、偶然だよね」

「そうそう」


 昨日の水樹の言葉は無視出来ないけど流石に昨日の今日で嫌がらせはしないだろ。

 隣に楓が居る状況なら尚更だ。

 俺はそう自分に言い聞かせて恐怖心を誤魔化した。

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